花崗岩 granite
花崗岩の定義と概要
地球科学における「花崗岩(granite)」という用語は、岩石名としての定義に従った狭義の花崗岩(下記を参照)と、花崗岩に類する組成を持った深成岩に対する総称という広義の花崗岩の 2つの使われ方がある。狭義の花崗岩以外の岩石を含めていることを強調するために、グラニトイド(granitoid、花崗岩類と呼ぶことにする)という用語が用いられるも多い。 この記事では、主に狭義の花崗岩を扱う。広義の花崗岩=花崗岩類に関わる話題は、グラニトイド(花崗岩類)の記事を参照されたい。
花崗岩の主な構成鉱物は、無色鉱物である長石(斜長石(plagioclase)およびカリ長石(K-feldspar))、石英(quartz)が90%程度を占め、これに10%程度の有色鉱物を伴う。有色鉱物は大抵の場合、黒雲母(biotite)または角閃石族(amphibole family)である。
花崗岩中の角閃石類は一般にはカルシウムに富む普通角閃石(hornblende)であるが、カルシウムの乏しいカミントン閃石(cummingtonite)やナトリウムやカリウムなどのアルカリに富むアルカリ角閃石類を含む場合もある。
アクセサリー鉱物(微量ではあるが普通に含まれる鉱物)として、磁鉄鉱、チタン鉄鉱、磁硫鉄鉱、燐灰石、ジルコン、褐簾石、チタン石(titenite、スフェーンspheneとも)等が挙げられれる。
狭義の花崗岩の構成鉱物の定義は「無色鉱物のうち、石英が20~60体積%、長石のうち斜長石の占める割合が10~65体積%である岩石」と言い表すことができる。 下のQAPF図で表わされる範囲である。 有色鉱物の量は定義には用いられていないが、全体に対してい10体積%程度であることが普通である。 広義の花崗岩、すなわち花崗岩類・グラニトイドという語が指す範囲は、狭義の花崗岩に加えて、花崗閃緑岩、トーナル岩の2つを含んだ領域であることが多いが、さらに広範にわたってQAPの正三角形の下側2/3くらいをすべて含んだ領域を指すこともある。
花崗岩の平均密度は通常2.5~2.8 g/cm3であるが、産地や構成鉱物の違い、風化の度合いなどによって変化する。 平均的な傾向として、花崗岩の密度は、苦鉄質の玄武岩2.8~3.1 g/cm3や超苦鉄質のかんらん岩3.3~3.5 g/cm3よりも低い。
成因・産出地
実験岩石学により、花崗岩類は含水状態の玄武岩質岩石が高温に晒されて部分溶融することで形成することが知られている。
地球の大部分を構成するマントルのかんらん岩を溶融させて花崗岩類を形成することはできない。
含水した玄武岩質岩石の部分溶融という条件が達成されるのは、ほとんどの場合プレートの沈み込み帯である。
プレート沈み込み帯では、海洋地殻と大陸下部地殻という2種類の起源の異なるの玄武岩質の地殻が存在しており、どちらも含水鉱物を含んでいると考えられている。
花崗岩類の形成に対して、海洋地殻と大陸下部地殻のどちらの溶融が支配的かは沈み込みの条件によって異なる。
プルーム起源の玄武岩質の海台や海山といった巨大火成岩石区(LIPs)の沈み込みが花崗岩類形成に寄与しているとする説もある。
狭義の花崗岩は、このような含水した玄武岩の部分溶融というプロセスだけで形成するのは困難で、玄武岩質の岩石の部分溶融で生じた花崗閃緑岩質やトーナル岩質のマグマが既存の花崗岩類や堆積岩を溶かし込むプロセスが必要である。
実際に野外で見られる花崗岩は、狭義のものも広義のものも、部分溶融や既存の地殻物質の溶かし込み、さらにはマグマ溜まり内での結晶分化作用など、
複合的に様々なプロセスを経て固結したものである。よって、花崗岩の成因として考えられるそれぞれのプロセスの寄与の度合いや、さらにはそれらが地域・時代の変化とどのように対応しているかは未解決の問題である。
狭義の花崗岩が地球上に出現するのは原生代以降(約25億年前以降)で、特に堆積岩の量が増加する10~7億年前以降に顕著に増加する。 それ以前の太古代には狭義の花崗岩の産出は稀で、より中間質寄りの組成を持つ花崗閃緑岩、トーナル岩、トロニエム岩などの花崗岩類が大半を占める。
花崗岩の分類
構成鉱物による分類
構成鉱物のうち、無色鉱物である長石類と石英は花崗岩の定義に用いられているので、自由度があるのは残りの有色鉱物の種類である。 有色鉱物の種類によって、主に以下の様な分類がある。なお、白雲母は組成からも見た目からも有色鉱物とは言いがたい鉱物だが、便宜上ここに含める。
- 黒雲母花崗岩 biotite granite
- 白雲母花崗岩 muscovite granite
- 両雲母花崗岩 複雲母花崗岩、two-mica granite
- 角閃石黒雲母花崗岩 hornblende biotite granite
- 角閃石花崗岩 hornblende granite
- 普通輝石花崗岩 augite granite
また、花崗岩を構成する副成分鉱物のうち通常よりも目立って大きな結晶になっている場合には、それらの鉱物名を冠して呼ぶことがある。
- 緑簾石花崗岩 epidote granite
- 褐簾石花崗岩 allanite granite
岩石組織による分類
花崗岩は深成岩なので等粒状組織を持ち、よくかき混ぜられた液体であるマグマから晶出するので通常はランダムに等方的に鉱物粒子は配置され岩石組織は持たない。 花崗岩が非等方的な組織を持つ要因として、「水などの揮発性成分の局所的な挙動」「マグマの固化が途中まで進んだ状態での流動」あるいは「マグマ固化後の変形作用」が挙げられる。
ただし、これらの岩石組織による分類においては、必ずしも組成が狭義の花崗岩に当てはまらない。広義の花崗岩、すなわち花崗岩類、の意味で「花崗岩」という用語を用いている点に注意が必要である。
- 斑状花崗岩 porphyritic granite
- 球状花崗岩 orbicular granite
- 文象花崗岩 graphic granite
- 巨晶花崗岩 megacrystic granite (ペグマタイト pegmatite)
- 片麻状花崗岩 gneissose granite
成因による分類 - Iタイプ花崗岩・Sタイプ花崗岩
花崗岩質マグマは、含水した玄武岩の部分溶融以外にも、元から花崗岩質の組成を持った堆積岩や変成岩が溶融することでも生じる。 玄武岩の含水溶融でできたマグマの花崗岩類をIタイプ(Igneous Type)、堆積岩の溶融の寄与が大きいマグマからできた花崗岩類をSタイプ(Sediment type)という分類が提唱されている(Chapell and White, 1974)。 このタイプ分けは絶対的に2つに別れるという基準ではなく、Iタイプ端成分(100%玄武岩の含水溶融でできたマグマ)とSタイプ端成分(100%堆積岩の溶融でできたマグマ)の間は固溶体のように連続的に変化する。 狭義の花崗岩は上記のように多かれ少なかれ既存の花崗岩類や堆積岩の寄与が無いと生じないため、ある程度のSタイプ成分を含んでいると言える。 このような成因による分類の詳細は花崗岩類の記事を参照されたい。
花崗岩の風化と変成
花崗岩は風化すると真砂(まさご)、または真砂土(まさつち、まさど)と呼ばれる粗い粒の砂(岩石学的には砂~レキ)になる。 真砂は庭園や社寺の敷石としてよく利用される。一方で、真砂でできた地盤は脆いためしばしば土砂災害に見舞われる(例えば、平成26年8月豪雨による広島市の土砂災害)。
花崗岩が変成を受けても鉱物組成はほとんど変化しない。花崗岩の形成場は大陸地殻下部~中部であるため、もともと大陸地殻深部の温度・圧力で平衡な鉱物組み合わせとなっているためである。
しかし、花崗岩が地下深部で変形を受ける事はしばしばあり、組成は変わらないものの鉱物が細長く引き伸ばされて片麻状構造を持つことが多い。このように花崗岩類を起源とした片麻岩を、正片麻岩(オルソナイス)と呼ぶ。
沈み込み帯や大陸衝突帯において、マントル深度まで沈み込んだ花崗岩は、高圧変成作用により鉱物組成が変化する。花崗岩の主要構成鉱物である曹長石は、石英とヒスイ輝石に分解する。黒雲母や角閃石類は柘榴石などの鉱物に変化する。
さらに深部では石英はシリカの高圧多形鉱物であるコース石、スティショフ石になる。
石材としての産業利用 - 御影石(みかげいし)
花崗岩は緻密で硬く、また等方的で均質な部分が得られやすいため、古くから世界各地で石材として利用されている。 現代においても、表札や個人の住宅の玄関先、公共の建物や商業施設などのビルディングの外装や床石、墓石など大小様々な構築物に対して利用されている。 緻密で大粒の結晶からなるため、岩石カッターで切断し表面を研磨して光沢を出すことが可能である。 研磨した後に石材の表面を化学薬品で処理して凹凸を出し、自然な風合いの演出、また床材としては滑り止め加工を施すことも多い。 カッターで切断せずに破砕させた割れ目をそのまま使用する、あるいは一度カッター切断された石材をバーナーで加熱したり、高い水圧のジェットを吹き付けるなどして、表面を荒くごつごつした形に仕上げて使用することも多い。
日本では石材名として御影石(みかげいし)と呼ぶことが多い。「御影」は、兵庫県神戸市の地名(旧武庫郡御影町、現在の東灘区御影石町など)に由来する。御影は花崗岩からなる六甲山地の麓に位置し、切り出した花崗岩の石材を大阪湾から各地へと古くから出荷していた。
国内の代表的な石材産地としては、茨城県笠間市稲田、福島県伊達市、愛媛県伊予大島などが挙げられる。かつては、国内の花崗岩地帯いたるところで御影石の採石が行われていたが、近年では中国、特に福建省、から安い花崗岩質の石材が輸入され廃業に追い込まれてしまった(岐阜県中津川市、山梨県塩山市などには有名な採石場がかつてあった)。
大陸地殻の構成岩石として花崗岩は最も一般的であるため、世界各地に花崗岩の採石場は分布している。
なお、「黒御影」と呼ばれる石材は花崗岩ではなく閃緑岩や斑糲岩、またドレライトなどである。
花崗岩と天然放射能
地球上の主要な放射性元素は、ウラン、トリウム、カリウムであるが、花崗岩はこれら全てが他の岩石よりも比較的濃集している。 一般的に、花崗岩が露出している地帯では天然放射線量が高い。