玄武岩 basalt
新鮮な玄武岩の外見は普通は黒色だが、しばしば風化や酸化を受けて暗緑色や赤茶色を帯びる。
玄武岩は地表や海底の様々な種類の場所で生じる最も一般的な組成の火山岩であるほか、海洋地殻上部は全て中央海嶺で噴出した玄武岩からなるため地球表面の約70%以上を覆っている。
新鮮な玄武岩 富士山麓 (産地地図)
玄武岩の概要
玄武岩は、SiO2の45-52wt%の火山岩として定義される。火成岩の中ではシリカが少なく、鉄やマグネシウムが多い組成で、苦鉄質火山岩に分類される。
SiO2が57~52 wt%のものは、玄武岩質安山岩basaltic andesiteと呼ばれる。
玄武岩の主な構成鉱物は、斑晶および石基として、有色鉱物である直方輝石(頑火輝石enstatite)、単斜輝石(普通輝石augite、透輝石diopside)、苦土かんらん石forsterite、
無色鉱物である斜長石(灰長石などを含む。
副成分鉱物として、磁鉄鉱やスピネルなどを含む。
アルカリ玄武岩(カリウムやナトリウムに富む玄武岩、後述)はケルスート閃石や金雲母、霞石を含むこともある。
玄武岩組成の岩石は苦鉄質の鉱物に富むため、花崗岩質や安山岩質の岩石と比べて密度が高いが、玄武岩は発泡していることも多いので岩石として密度が高いかどうかは別問題である。
成因と分類
含水または減圧によってマントルかんらん岩が部分溶融した際に生じる初生的な組成のメルトは玄武岩質である。
ただし、玄武岩質マグマがすべて初生マグマではない。
たいていの玄武岩質マグマは,初生マグマとして生成した後に組成が変化し続けてから固化あるいは地表へ火山から噴出する。
マグマの組成の変化の多くは結晶分化作用によるものであると考えられている。
以下に代表的な玄武岩質マグマの発生場を記す。
1. 中央海嶺: 中央海嶺は海洋プレートの生産場である。マントルの動き、あるいは海洋プレートの沈み込みによって生じた海洋プレートの裂け目が中央海嶺であり、
減圧によりマントルかんらん岩が部分溶融し、玄武岩質マグマを生じる。中央海嶺の玄武岩質マグマは、上部は急冷されて玄武岩に、下部は徐々に冷され斑れい岩になる。
中央海嶺玄武岩Mid-Oceanic Ridge Basaltを略して、MORB(モルブ)と称される。
中央海嶺玄武岩は、海底の海洋プレート表面の海洋地殻を成す。通常、海底にあるため地表で中央海嶺玄武岩を直接見ることはできない。
しかし、海洋プレートの一部が沈み込み帯で付加体として保存されると、陸上で観察できるようになる。
日本列島の付加体にもこのような中央海嶺玄武岩が多数保存されている。
海洋プレートはマントルへ沈み込んでしまうために最大でも2億年程度しか地球表面に留まっていないが、
付加体に着目すれば最大で約38~40億年前までの中央海嶺玄武岩を探し出すことができる。
2. ホットスポット: ホットスポットは、プレートの動きとは独立して生じるマントルの上昇流によって、局地的に高温になった場所で生じる火成活動である。 ホットスポットにはハワイやアイスランドのような海洋島、オントンジャワ、シャツキー、ケルゲレンのような海台、デカン高原やシベリアトラップのような陸上のものまで、大小様々なものがある。 特に海台や陸上のホットスポットで巨大なものは、巨大火成岩石区(Large Igneous Provenances: LIPs)と称される。 ホットスポットで生じるマグマは大半が玄武岩質である。 アイスランドのように巨大なものになると、流紋岩質のマグマも生じる。
3. 沈み込み帯: プレート沈み込み帯の火山活動は大半が安山岩質であるが、一部は玄武岩質のマグマも噴出する。富士山や伊豆大島が玄武岩質マグマによる火山の代表的な例である。
4. リフト帯: マントル上昇流によって大陸が裂けているリフト帯では、玄武岩質マグマが噴出する。 リフト帯の裂け目が拡大していくと、やがて中央海嶺になる。 リフト帯では、多量の玄武岩質マグマと少量の流紋岩質マグマが噴出し、安山岩質マグマがほとんど噴出し無いことが特徴的である(バイモーダル火成活動。) 現在の地球では、東アフリカ地溝帯がリフト帯の代表例である。 また、小さなリフト帯として、背弧盆地が挙げられる。日本海は背弧盆地の代表例である。
玄武岩は地球のみならず、金星や火星でも一般的な岩石である。月表面の黒くみえる部分も玄武岩質である。
水がなくてもマントルかんらん岩が部分溶融すれば生じるため、広く他の岩石質の天体でも見られる。
マントルかんらん岩から生じる通常の玄武岩は、ソレアイトtholeiteと呼ばれる(ソレアイト玄武岩tholeitic basaltとも呼ばれるが稀)。 中学・高校の地学教科書は間違っており、玄武岩質マグマからかんらん石やCaに富む斜長石が晶出して分別しても、 マグマのSiO2の割合は増加せず、安山岩質マグマにもならない。SiO2はあまり変化せず鉄が増加します。 SiO2はあまり変化せず鉄が増加するようなマグマの化学組成変化をソレアイト系列と呼ぶ。 ソレアイト系列の火成岩から磁鉄鉱等の鉄鉱物が結晶化することで、SiO2の含有率が増え始めると考えられるが、磁鉄鉱は3価の鉄イオンを含むため、 このような結晶分化による組成変化が起こるかどうかはマグマの酸化還元状態に強く依存する。
一方で、含水率の低いかんらん岩が低い部分溶融度で生じる玄武岩質メルトはナトリウムやカリウムといったアルカリ元素に富んでおり、アルカリ玄武岩と呼ばれる。 ソレアイトは上記の玄武岩質マグマの発生場のどこでも見られるが、特に中央海嶺や沈み込み帯では一般的である。 アルカリ玄武岩は、ホットスポットやリフト帯に特徴的である。
ピクライトは、かんらん石の斑晶を多量に含む玄武岩の一種で,典型的なものはかんらん石を50%以上含むものである。
かんらん石が20%程度以上で50%以下の場合はピクライト質玄武岩という。
かんらん石斑晶が少ない岩石(急冷されて非晶質ガラスの場合など)でも、化学分析結果がMgOを12wt%以上含む場合はピクライト(または高Mg玄武岩)と呼ぶことがある。
ピクライトおよびピクライト質玄武岩は、ホットスポットに特徴的である。ハワイでは透明度の高い黄緑色の苦土カンラン石を多量に含んだ美しいピクライトを産し、大粒のカンラン石は宝飾に用いられる。
日本ではピクライトは佐渡ヶ島のものが有名である。
玄武岩質マグマと火山の特徴
火山や中央海嶺で噴出する玄武岩質マグマの温度は約1000~1200℃で、安山岩質マグマや流紋岩質マグマよりも高温である。
また玄武岩質マグマは、粘性が低く流れやすい。マグマの粘性が低いため、含まれるガスが抜けやすく、爆発的な噴火に至ることは少ない。
溶岩が破片状にならずに、そのまま液体として火口から流出したものを溶岩流と呼ぶ。
玄武岩質の溶岩流を出すハワイ式噴火では、平たい形をした楯状火山を形成する。その名の通り、ハワイのキラウエア火山やマウナケア火山はハワイ式噴火によって作られた火山の典型例である。
溶岩流の固結によって作られる構造は粘性によって異なる。粘性の低い玄武岩質マグマによる溶岩流はパホイホイ溶岩(表面がなめらかで平たい、縄状模様を持つこともある)かアア溶岩(表面がガサガサしている)である。
さらに粘性の高い安山岩質の溶岩流では、より表面が大きく角ばった塊状溶岩(ブロッキーラヴァ)になることが多い。
玄武岩質の溶岩でもガスが抜けない場合は爆発的な噴火になり、それらはストロンボリ式噴火になることが多い。
ストロンボリ式噴火では、間欠的に爆発的な噴火をし、半固結状態の溶岩を数百メートルの高さにまで噴き上げる。
この半固結の玄武岩質マグマが空中で固化するとスコリアになり、流紋岩質の軽石に対応する火山噴出物になる。
半固結の噴出物が地表に落下、集塊して粘性が高まりながらもさらに流下したものをアグルチネート溶岩という。
ストロンボリ式噴火はイタリアのストロンボリ火山から名づけられたものである。日本国内の代表的な玄武岩質マグマのストロンボリ式噴火をする火山は伊豆大島三原山や富士山が挙げられる。
玄武岩の露頭は、しばしば六角形の柱が集合した柱状節理を示す。これは玄武岩質マグマの冷却に伴ってマグマの体積が収縮してできる構造である。 水中に噴出した玄武岩質の溶岩流は、枕状溶岩を形成することが多い。
玄武岩の風化・変質・変成
玄武岩の主要な構成鉱物であるかんらん石や輝石、また非晶質の玄武岩質ガラスは、地表で風化にさらされると分解して他の鉱物に変化しやすい。 新鮮な玄武岩は黒色または暗緑色であることが多いが、風化を受けると赤褐色を呈する。 玄武岩は鉄分を多く含むため、3価の鉄イオンの色である赤褐色を呈する鉄酸化鉱物や鉄を含んだ粘土鉱物類を生じるためである。
玄武岩が変成を受けると、温度・圧力によって多様な変成鉱物組み合わせを生じる。 玄武岩質の変成岩を総称して緑色岩(メタベイサイト)と呼ばれ、変成岩が形成した時の温度・圧力の条件を探る上で極めて重要である。
玄武岩の産業的利用
玄武岩の砕石(砂利)は、コンクリート用骨材、道路舗装用、道路路盤用、鉄道道床用骨材として広く使用される。