ジルコン zircon

ジルコン(zircon, じるこん)はZrSiO4という組成を持つ正方晶系の鉱物。ジルコニウム、珪素、酸素からなり、ネソ珪酸塩鉱物の1種。 ハフニウム、トリウム、ウラン、レアアース元素などの様々な副成分を含む。理想的なジルコンの硬度は7.5、比重は4.7であるが、副成分の影響でこれより低くなることがしばしばある。
純粋なジルコンの色は無色透明であるが、副成分や放射線の影響によって淡褐色、赤褐色~紫色、黄色、濃褐色、灰色など様々な色で産する。
0.5 mm以下の微小なジルコンは火成岩変成岩堆積岩の様々な岩石中に広く含まれる。 1cmを超えるような大きな結晶はペグマタイトカーボナタイトなどの岩石に産する。
ジルコンはジルコニウムやハフニウムの原材料として採掘される他、透明度の高く色の美しいジルコンは宝石として用いられる。

典型的な花崗岩中のジルコン結晶。
栃木県の白亜紀沢入花崗岩から分離したもの。
右下のスケールバーは20 μm(= 0.02 mm)。

ジルコンの特徴

ジルコンの外見的特徴

純粋なジルコンの色は無色透明であるが、不純物や微量に含まれるウラン・トリウムの放射線の影響を受けて淡褐色、褐色、赤褐色、橙色、黄色、淡赤色、帯紫褐色、灰色など様々な色を呈する。メタミクト(放射線による結晶格子の欠陥)の進んだジルコンは、透明度の低い褐色や灰色、黒色などになることが多い。なお、宝石として販売されているジルコンでは水色や青色のものが多いが、これらの色をもつジルコンの大半は加熱処理されている。

ジルコンの自形結晶は、四角柱の両端に四角錐を合わせた形が最も基本的である。その他に様々な中間面をもつ複雑な形の結晶が見られる。ペグマタイトでは柱面を完全に欠き、ややつぶれた八面体をしたジルコンの結晶がしばしば見られる。ジルコン結晶の表面は多くの場合平坦であるが、柱面にc軸方向(柱の伸びている方向)と垂直に条線が見られるものや、同心縞状の成長累帯が見られるものがしばしばある。

ジルコンは自身に含まれるウランやトリウムの放射線の影響によって結晶構造が乱され、徐々に非晶質となっていく(メタミクト化)。 メタミクトによって、ジルコンの色が変化するだけでなく、硬度、比重、屈折率などが低下するという物理的性質の変化も生じる。 理想的なジルコンの硬度は7.5、比重は4.7はであるが、メタミクトによって硬度6.5程度、比重4以下程度にまで下がることがある。 宝石業界ではメタミクトの度合いによって、ハイタイプ(比重 4.8~4.6)、ミドルタイプ(比重 4.6~4.2)、ロータイプ(比重 4.2~3.9)に分けられる。大半の宝石質ジルコンはハイタイプである。 ロータイプの宝石質ジルコンの産出は稀であるが緑色、灰緑色、褐緑色などの緑系統のを呈する。

ペグマタイト中のジルコン。わずかに石英を伴う。Loc. Malawi
ペグマタイト中のジルコン。ウラン、トリウムの濃度が高くメタミクトが進み黄褐色を呈している。わずかに石英(水晶)を伴う。画像幅約5cm。Loc. Malawi

ジルコンの化学的特徴とジルコングループ鉱物

ジルコン中のジルコニウムは8配位4価のジルコニウムイオンZr4+として珪酸イオンSiO42-と結合しているが、天然に産するジルコンにおいて、これらの一部は様々な元素によって置き換えられていることが普通である。
特にジルコニウムと近い化学的性質を持つハフニウム(Hf)は、花崗岩などに含まれている通常のジルコンでも数 wt%に達する濃度で含まれている。50%以上のジルコニウムをハフニウムに置き換えた鉱物はハフノンと呼ばれる。つまり、天然に産する大半のジルコンは、端成分のジルコンとハフノンの固溶体であると言える。
ウランやトリウムといった放射性元素も4価のイオン(U4+、Th4+)となってジルコン中のZr4+を置き換えて含まれている。花崗岩などに含まれている通常のジルコンでは、ウラン・トリウムはそれぞれppm程度の濃度である。ジルコンのZrをThに置き換えた端成分はトール石と呼ばれる。トール石の中でも特にウランに富んでいるものはウラノトール石(uranothorite, (Th, U)SiO4)と呼ばれることがある。

この他のレアアース元素(REE)やイットリウムYなどの3価のイオンや、リン、ニオブ、タンタルなどの5価のイオンがジルコン中に含まれる置換関係として、以下のようにジルコニウム2つがペアになって置換されると考えられている(Es’kova, 1959; Speer, 1982; Halden et al., 1993)。
 2 Zr4+ = (Y,REE)3+ + (Nb,Ta)5+
 Zr4+ + Si4+ = (REE, Y, Sc)3+ +P5+

特に後者のような置換は、同じ結晶構造を持つイットリウムやレアアース元素のリン酸塩鉱物であるゼノタイムとの"固溶体関係"とみなすこともできるため、ゼノタイム置換と呼ばれる。ジルコンへの希土類元素の固溶の形態としては、ゼノタイム置換が最も支配的である。

希土類元素は質量数の大きいほうがイオン半径が小さい。ジルコン中に存在する8配位のZr4+のイオン半径は0.84 Åであるのに対して、最も質量数の小さいランタンLa3+のイオン半径は1.16 Å、最も質量数の大きなルテチウムLu3+は0.98Åであり、質量数の大きな希土類元素(重希土類元素、ヘビーレアアース元素, HREE)の方が質量数の小さい希土類元素(軽希土類元素、ライトレアアース元素, LREE)よりもジルコニウムのイオン半径に近い。従って、大半のジルコンはLREEに乏しく、HREEに富んでいる。
一方で、希土類元素のほとんどは3価のイオンとしてマグマや熱水などの流体に存在しているが、セリウムCeだけは大半の珪酸塩マグマ中で3価と4価が共存している。そのため、他の希土類元素よりもジルコニウムZr4+を置換しやすく、質量数で両隣のLaやプラセオジムPrよりも相対的にジルコンに多く含まれている。ジルコンのジルコニウムの過半数をセリウムで置換した鉱物をセリウムステティンド石 stetindite-(Ce)といい、ジルコングループの1種である。

さらに、ジルコンには水が含まれる置換として以下のような関係が考えられている(Frondel, 1953; Caruba and Iacconi, 1983)。
 (OH)4 = SiO4
 Mn+ + n(OH)- + (4–n)H2O = Zr4+ + (SiO4)4-

格子間を用いた置換によって、以下のようにジルコンに鉄やマグネシウム、アルミニウムが含まれる(Hoskin et al., 2000)。
 3Zr4+ + Si4+ = 3(REE, Y)3+ +P5+ +(Mg,Fe)2+(int)
 4Zr4+ + Si4+ = 4(REE, Y)3+ +P5+ +(Al,Fe)3+(int)

以下にジルコングループの鉱物を列挙する。

ジルコンの同質異像として、レイド石(reidite)がある。レイド石は超高圧環境下で生じ、灰重石と同じ結晶構造をもつ。

ジルコンの発光現象

ジルコンは短波紫外線や電子線を照射することで発光する。紫外線による発光現象を蛍光(フォトルミネッセンス)、電子線によるものをカソードルミネッセンスという。ジルコンの短波紫外線による蛍光は黄色や赤色などを呈するものが多いが、ほとんど発光しないものもある。電子線によるカソードルミネッセンスの色は火成岩起源のジルコンは青色、変成岩起源のジルコンは黄色を呈することが多い。

#かわいいジルコン
ジルコン 岡山県 通常光 蛍光 pic.twitter.com/dJt01nfvO4

— ちむら (@chimura_) 2018年10月20日

短波紫外線を照射することで黄色く蛍光するジルコン。Loc. 岡山県大佐山。

カソードルミネッセンス像観察の電子線源は走査型電子顕微鏡を用いることが普通である。カソードルミネッセンスの発光はジルコン内部の格子欠陥によって生じるため、波状累帯構造(オシラトリーゾーニング、oscillatory zoning)やセクターゾーニング(sector zoning)が可視化される。

青色のカソードルミネッセンスを示すジルコン。オシラトリー累帯構造を保つ中心部と、変成・変質によって規則的な累帯構造の失われた外縁部が見られる。画像幅約0.5 mm
青色のカソードルミネッセンスを示すジルコン。画像幅約0.5 mm。オシラトリー累帯構造を保つ中心部と、変成・変質によって規則的な累帯構造の失われた外縁部が見られる。23億年前マーマックベイ層群のクォーツァイト中より分離された砕屑性ジルコン。

ジルコンの産出

火成岩中のジルコン

ジルコンは様々な種類の火成岩中に生じるが、特に花崗岩花崗閃緑岩などの花崗岩質岩、すなわち珪長質から中間質の深成岩および半深成岩の中に多い。流紋岩デイサイト安山岩などの珪長質な火山岩にもしばしばジルコンが含まれているが、それらはマグマだまり中で結晶化したものであり、ガラス質の石基が多いものでは全く含まれていないことも少なくない。たいていの火成岩中のジルコンの大きさは0.5 mm以下である。

ペグマタイト中のジルコン。長石、黒雲母に伴う。Loc. Giligit, Pakistan
ペグマタイト中の赤褐色で透明感のあるジルコンの結晶。長石、石英、黒雲母に伴う。Loc. Giligit, Pakistan。

堆積岩中のジルコン

ジルコンは他の造岩鉱物よりも風化、変質に対する耐久性が高いため、砕屑物となっても他の鉱物に変質することはほとんど無い。このように風化、侵食を受けた母岩から分離して砕屑物となったジルコンのことを砕屑性ジルコン(さいせつせいじるこん)という。 河川などによって陸上を運搬された距離が長いとジルコン粒子の円磨が進み、自形結晶の角が徐々に削られて、最終的には楕円形や球形になる。
花崗岩類などのジルコンを多数含む岩石由来の砕屑物の固まった砂岩礫岩、ないし泥岩など堆積岩には多数の砕屑性ジルコンが含まれる。一方で、ジルコンをほとんど含まない玄武岩などの岩石由来の砕屑物からなる堆積岩や、チャートや石灰岩などの砕屑物の流入がほとんどない場所で形成された化学堆積岩などにはほとんどジルコンは含まれない。凝灰岩については、流紋岩やデイサイトなどの珪長質のマグマ由来の火山灰からなるもので噴出地点の火山に比較的近い場所で生じた凝灰岩にはジルコンが豊富に含まれている一方、玄武岩など苦鉄質マグマ由来の火山灰からなるものや、噴出地点から遠くごく微細な粒子のみからなる凝灰岩にはジルコンはほとんど含まれていない。

ブラジルの川砂から分離された砕屑性ジルコン detrital zircon grains from river sand of Brazilian river
ブラジルの川砂から分離された砕屑性ジルコン。自形結晶に近いジルコン粒子から、ほとんど球体に近いものまで、円磨の違いが見られる。

変成岩中のジルコン

上記に示した花崗岩類や砂岩、礫岩など、もともとジルコンを豊富に含んでいる岩石が変成した場合、ジルコンを含んだ変成岩となる。一方で、変成作用によって新たにジルコンが生じることがある。このようなジルコンはTh/U比の値が0.1以下となるなど、特徴的な化学組成を持っていることが多い(Hoskin and Black, 2000; Rubatto, 2002)。

ジルコン中の包有物(インクリュージョン)

天然に産するジルコンは様々な種類の鉱物の包有物(インクリュージョン)を含んでいる。ジルコンの包有物で特に多いのは燐灰石磁鉄鉱斜長石などが挙げられる。

ジルコン中のインクリュージョン鉱物(ジルコンの包有物) ブラジルの川砂ジルコン
ジルコン中に見られる様々なインクリュージョン(包有物)鉱物 (ブラジルの川砂ジルコン)

ジルコン年代測定・同位体分析

多くのジルコンは、形成時にウランやトリウムを数百ppmから数千ppm程度一方で、鉛はほとんど含まない。 そのため、ジルコンに含まれる鉛はほとんどすべてウランやトリウムの放射壊変で生じた鉛である。したがって、ジルコン中のウラン、トリウム、鉛の同位体比を分析することで、高精度の年代測定が可能である。

カーボナタイト中から分離された宝石質のジルコン。Loc. Mudtank, W. Australia
現在人類の知る地球上で最古の物質である西オーストラリア イルガルン地塊 約30億年前ジャックヒルズ礫岩中の砕屑性ジルコン。ただし、40億年前を超える古さのジルコンはこれらの中の5-10%以下であるので注意。

ジルコンの産業的利用

ジルコンはジルコニウムやハフニウムの主要な原料鉱石として重要な鉱物であるほか、大型で透明度の高く美しい結晶のジルコンは宝石として利用される。

ジルコニウム鉱石として

ジルコニウムの鉱石として採掘されるジルコンのほとんどは漂砂鉱床(重砂鉱床)の"ジルコンサンド"の形で存在し、共存するチタン鉄鉱、ルチルなどのチタン鉱石の副産物として生産される。
世界のジルコン鉱石の生産量は約150万tで、オーストラリア、南アフリカの2ヶ国で約7割を占めている。次いで、中国、インドネシア、モザンビーク、インド、スリランカ等でもジルコンサンドの採掘が行われている。 タイやマレーシアでは漂砂鉱床の錫鉱床(錫石)や金鉱床(自然金(砂金))の副産物として生産されている。
ジルコンサンド生産会社はIluka(オーストラリア)、Tronox(アメリカ)、Richard Bay(南アフリカ)が大手であり、この3社で約6割を生産している(初谷, 2015)。

ガラス瓶に入ったジルコンサンド。マレーシア産。zircon sand from Malaysia
ガラス瓶に入ったジルコンサンド。マレーシア産。画像幅約2cm。

採掘されたジルコンを粉砕して粒径を0.2mm程度としたものをジルコンフラワー、さらに細粒の0.045 mm以下にまで調整したものをマイクロナイズドジルコンと称される。 ジルコンフラワーは耐火物、鋳物砂、陶磁器用釉薬、陶磁器素地として、マイクロナイズドジルコンは釉薬、特殊ガラス等として利用される。 鉱石として採掘されたジルコンの半分以上は陶磁器の素地や釉薬の原料として用いられ、次いでタイルや煉瓦などのジルコン質耐火物が主な用途として挙げられる。

ジルコンを精錬することで、二酸化ジルコニウム(ジルコニア)や金属単体のジルコニウムが得られる。
ジルコンから二酸化ジルコニウムを精製する方法として2通りがあり、ジルコンの電気溶融により精製される「乾式ジルコニア」と、ジルコンを水酸化ナトリウムとともに加熱して溶融した後に塩酸で分解してオキシ塩化ジルコニウム(ZrOCl2)として精製される「湿式ジルコニア」に大別される。純度は一般的に湿式ジルコニアの方が高く、乾式ジルコニアは99%程度、湿式ジルコニアは99.9%程度とされる。乾式ジルコニアは耐火物、窯業顔料、研磨材、ブレーキパッド粉、キュービックジルコニアの原料として、また、湿式ジルコニアはファインセラミックス、排ガス助触媒、酸素センサー、電子材料(圧電セラミックス、セラミックコンデンサー等)、ガラス添加剤、上質紙のコート剤として利用されている。
金属ジルコニウムはジルコンを高温塩素で処理することで四塩化ジルコニウムとし、それを金属マグネシウムで還元する方法で得られている。この方法はクロール法と呼ばれ、金属チタンも同じ工法で精製されている。 金属ジルコニウムの市場は小さいものの、耐食性が高く金属の中で中性子を最も吸収しにくいなどの性質から、原子力燃料被覆管(ジルカロイ)やその他核燃料再処理施設などの原子力関連産業や、化学工業分野における耐食性材料などとして利用される。原子力関連に利用されるジルコニウムは特にハフニウムの濃度100ppm以下まで下げる必要がある。この際に分離されるハフニウムによって既にハフニウムの市場は飽和状態にある。

宝石として

宝石として用いられているジルコンは、ペグマタイトやカーボナタイトから産出する大型の結晶を起源に持つが、主に砕屑物や沖積層から採集されている。 このようなジルコンは円磨され、結晶面が失われて球に近い形となり、表面は磨りガラス状に曇っている事が多い。

宝石質ジルコンの産地は世界各地にあり、特に供給量の多い産地としてミャンマー、カンボジア、スリランカ、ベトナムタイ、オーストラリア、マダガスカル、タンザニアなどが挙げられる。

カーボナタイト中から分離された宝石質のジルコン。Loc. Mudtank, W. Australia。s
カーボナタイト中から分離された宝石質のジルコン。 Loc. Mudtank, W. Australia。

関連項目

参考文献

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planetscope岩石鉱物詳解図鑑

planetscopeサイト内の画像利用については、 こちらの記事を参照ください。