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蛇灰岩 ophicalcite

蛇灰岩(じゃかいがん, ophicalcite, オフィカルサイト)は主に蛇紋石(serpentine, サーペンティン)方解石からなる岩石。 蛇灰岩は主としてかんらん岩などの超苦鉄質岩が二酸化炭素に富んだ熱水と反応することで生じると考えられている。
蛇灰岩(埼玉県金崎)_ophicalcite Saitama, Japan Sanbagawa metamorphic belt
蛇灰岩(埼玉県金崎 画像幅約15cm)

蛇灰岩の概要

蛇灰岩には厳密な定義があるわけではないが、主要な構成鉱物が蛇紋石グループの鉱物と炭酸塩鉱物方解石で、蛇紋石部分は角礫状となって方解石からなる”マトリックス(基質)”に支えられた岩石のことを指す場合が多い。
オフィカルサイトの名称はもともと”オフィオライトに産する方解石”という意味から付けられたものである。 炭酸塩鉱物として方解石以外の苦灰石菱苦土石が主として含まれる場合もあり、それぞれオフィドロマイト(ophidolimite)オフィマグネサイト(ophimagnesite)と呼ばれることもある。さらに、これらをまとめたオフィカーボネート(ophicarbonate)という用語もある。

蛇灰岩を構成する蛇紋石グループの鉱物は、主にリザーダイト(リザード石)またはアンチゴライト(アンティゴライト)である。この他、磁鉄鉱やクロム鉄鉱などの蛇紋岩に一般的な鉱物も含まれる。

また、原岩となったかんらん岩などの超苦鉄質岩を構成していたかんらん石(苦土かんらん石)、頑火輝石(直方輝石)などが残っていることもある。

蛇灰岩は角張ったmm程度からメートル程度の蛇紋岩の角礫が炭酸塩による基質またはセメント状の癒着によって支えられている構造を持つ。蛇紋岩は様々な程度で変形しており、また様々な程度の炭酸塩化も被っている。蛇灰岩中の炭酸塩鉱物は、蛇紋岩を交代したものと、岩石の空隙に新たに沈殿したものの2種類が見られる。また、ミクライト状の炭酸塩鉱物の粒子によるラミナ構造が見られることもある。

蛇灰岩の露頭
蛇灰岩の露頭。

蛇灰岩の産出地と成因

蛇灰岩に見られる組織は、超苦鉄質岩の破砕、堆積作用、そして蛇紋岩化や炭酸塩化などの変質作用が複雑に絡み合って形成したことを物語っている。蛇灰岩の形成には海底での断層運動と熱水活動が関与していると考えられているが、その詳細の解読の困難さゆえに、蛇灰岩の形成メカニズムは未だ議論になっている。 このため、蛇灰岩を堆積岩とみなすべきか変成岩(変質岩)とみなすべきかは意見が分かれる。

現世の海洋底で観察される蛇灰岩

中央海嶺の側方に伸びるトランスフォーム断層沿いなどでは、海洋プレート下のマントル部分を構成するかんらん岩が露出しており、この一部では蛇灰岩が観察されている。 また、プレート沈み込み帯の大陸側前弧域では、ウェッジマントルの一部が蛇紋岩化して噴出した蛇紋岩海山にともなって、蛇灰岩が見られる。

地質記録に見られる蛇灰岩

蛇灰岩は主に顕生代のオフィオライトや付加体・低温高圧型変成帯の中の蛇紋岩体に見られる。日本では埼玉県長瀞町金崎の三波川変成帯内の蛇灰岩が有名である。世界では、オマーン、カリフォリニア、ギリシャ、スイス、イタリア、台湾など各地で蛇灰岩が見られる。

蛇灰岩の産業利用

蛇灰岩の重要な用途として石材が挙げられる。建築業界や石材業界では、蛇灰岩は"大理石(マーブル)の1種"として扱われる。緑色系の大理石として販売されている石材の多くは、岩石学的には蛇灰岩やそれに関連した蛇灰岩などの岩石である。 このような蛇灰岩の石材としての取り扱いは、岩石学的な意味での大理石と同様に硬度が低い鉱物を主体としていることや、研磨面の見た目が類似していることに基づいていると考えられる。

西洋では蛇灰岩をヴェルデアンティークVerd antique、マーマーテッサリアmarmor thessalicumなどという石材名で呼び、マーブル(大理石)の1種として用いられてきた。 日本では埼玉県長瀞地域の蛇灰岩がかつて「鳩糞石」という名称の石材として利用された。

関連項目

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参考文献

planetscope岩石鉱物詳解図鑑