ベスブ石 vesuvianite

ベスブ石(べすぶせき,べすぶいし, vesuvianite, ヴェスヴィアナイト, ベスビアナイト、ヴェスヴ石)は Ca19Fe3+Al4(Al6Mg2)[O|(OH)9|(SiO4)10|(Si2O7)4] という組成を持ち正方晶系の鉱物。 珪酸塩鉱物に分類される。主にスカルンロディン岩などに産出するカルシウム、アルミニウムおよびシリカを主成分とする含水鉱物。
ベスブ石(Vesuvianite, べすぶせき,ヴェスヴィアナイト)の結晶 スカルンに産するベスブ石の結晶 宮崎県  vesuvianite crystal from skarn in Miyazaki, Japan
スカルンに産するベスブ石の結晶 宮崎県
画像幅約3cm

ベスブ石の組成とベスブ石グループ

ベスブ石の組成は、上記の通りCa19Fe3+Al4(Al6Mg2)[O|(OH)9|(SiO4)10|(Si2O7)4]と書かれることが多いが、実際には簡略化されている。 まず、空位を書き足すと、 Ca19Fe3+Al4(Al6Mg2)(□4)□[O|(OH)9|(SiO4)10|(Si2O7)4] となる。
さらに、Ca19には実際には結晶学的に異なる4つのサイトに分かれており、また(OH)9の結晶学的なサイトも異なるものが含まれている。これらを分けて書くと、 Ca2Ca8Ca8CaFe3+Al4(Al6Mg2)(□4)□[O(OH)|(OH)8|(SiO4)10|(Si2O7)4] と表せる。

ベスブ石は、下記の組成式で一般化されるベスブ石グループ(Vesuvianite Group)をなす。
[X42][X38][X28][X1][Y1][Y24][Y38][T14][T2][(O10)2|(O11)8|(SiO4)10|(Si2O7)4]
X4 ~ X1 = Ca, Na, REE, Pb2+, Sb3+, □, H2O, Bi3+
Y3 ~ Y1 = Al, Mg, Fe3+, Fe2+, Ti, Mn3+, Cu, Zn
T2 = □, B, S
T1 = □, B、Al, Fe3+
"O10" = O, OH, F, Cl
"O11" = OH, O, F

以下に、ベスブ石グループの鉱物の一覧を示す。

なお、ベスブ石の組成を結晶学的な構造を考慮せずに簡略化すると、 Ca19Fe3+Al8Mg2Si18O62(OH)9 と表すことができる。この式からわかるように、ベスブ石の組成式ではCa原子の数がSi原子よりも多く、シリカに乏しくカルシウムに富む鉱物であることがわかる。

かつてはベスブ石の組成は、Ca10(Mg, Fe)2Al4(SiO4)5(Si2O7)2(OH,F)4と考えられていた(Warren and Modell, 1931)。分析の進展により、何回かの改訂が提案されてきたが、最終的に上記の形に落ち着いたのは1992年である(Groat et al., 1992)。

ベスブ石の特徴

ベスブ石の硬度は6~7、比重は3.42である。

ベスブ石の色は様々で、褐色、黒褐色、黄色、黄緑色、緑色、青色、灰色、白色、桃色、赤紫色、赤色などがある。 特に、鮮やかな緑色のベスブ石はクロムによって、桃色、赤紫色、赤色などはマンガンによって(すなわちマンガンベスブ石との固溶体によって)発色している。

ピンク色を帯びたベスブ石 カナダ ジェフェリー鉱山 pinky vesuvianite Cnada Jeffery Mine
ピンク色を帯びたベスブ石 カナダ ジェフェリー鉱山。画像幅約5cm。

ベスブ石の結晶は粒状、柱状、針状などで産する。粒状や柱状の結晶では、結晶の頭が平らで立方体や直方体に近いものと、錐状の尖った頭のものとがある。粒状の褐色や黄色の結晶では、灰礬柘榴石灰鉄柘榴石との肉眼的な判別の困難なものもしばしばある。針状の結晶は、放射状集合で産する。

先端の尖ったベスブ石の結晶。アフガニスタン。Pointed vesuvianite crystals Afghanistan
先端の尖ったベスブ石の結晶。アフガニスタン。画像幅約3cm。

灰礬柘榴石に極めてよく似た粒状結晶のベスブ石 埼玉県秩父鉱山 Vesuvianite with granular crystals very similar to chalcopyrite, Chichibu Mine, Saitama Prefecture Japan
灰礬柘榴石に極めてよく似た粒状結晶のベスブ石 埼玉県秩父鉱山。画像幅約4cm。

針状結晶放射状集合のベスブ石 長野県甲武信鉱山 Radial assembly of needle-like crystals of Vesuvianite Nagano Japan
針状結晶放射状集合のベスブ石 長野県甲武信鉱山。画像幅約7cm。

ベスブ石の産出

ベスブ石は主にスカルンまたはロディン岩に産出する。
スカルンに産するベスブ石の主な共存鉱物は、方解石珪灰石透輝石灰礬柘榴石灰鉄柘榴石モンチセリ石緑簾石斜灰簾石緑泥石、柱石などが挙げられる。ベスブ石ほぼ単体で集塊をなすことも多い。
ロディン岩に産するベスブ石の共存鉱物もおおよそ似ており、蛇紋石緑泥石透輝石灰礬柘榴石灰鉄柘榴石などが挙げられる。
ベスブ石はシリカに乏しくカルシウムに富む鉱物であり、いずれの産状であっても石英とは共存しない。
原産地のイタリア・ヴェスヴィオス火山(Monte Somma, Somma-Vesuvius Complex, Naples, Campania, Italy)では、火山岩の中の石灰岩質捕獲岩がスカルンとなってベスブ石をはじめ様々な鉱物が形成している。
カナダのジェフェリー鉱山(Jeffery Mine)はもともと蛇紋岩体に産する石綿を採掘していた鉱山であったが、共に産するロディン岩中から美しいベスブ石の結晶を産したことで有名である。

ベスブ石の産業的利用

ベスブ石の美しい結晶は宝飾品に用いられることもある。かつてはベスブ石はイドクレース(Idocrase)と呼ばれていたが、現在では一般的ではない。 カリフォルニアでは黄緑色塊状のベスブ石が産出し、カリフォルナイトCalifornite、カリフォルニア翡翠California jade、アメリカン翡翠American jade、カリフォルニア玉などと呼ばれる。

カリフォルニア玉に類するあざやかな黄緑色塊状のベスブ石 岩手県  Vivid yellow-green massive vesuvium, similar to California jade Japan
カリフォルニア玉に類するあざやかな黄緑色塊状のベスブ石 岩手県。画像幅約5cm。

関連項目

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