2015 ジンバブエ 約22億年前マゴンディ累層群とその基盤の太古代花崗岩類

【Zimbabwe】ca. 2.2 Ga Magondi Supergroup and its granitic basement

巡検の概要

マゴンディ累層群(Magondi Supergroup)ジンバブエ地塊(Zimbabwe Craton)の北西に堆積した22~21億年前前期原生代の地層です。 主に砂岩・泥岩などの砕屑岩と、苦灰岩などの炭酸塩岩からなる地層です。下からデウェラス層群(Deweras Group)、ロマグンディ層群(Lomagundi Group)およびピリウィリ層群(Piriwiri Group)となります。 特に、このロマグンディ層の炭酸塩岩の炭素同位体比δ13Cから地球史上最大の変動を示すことが発見され、後に北欧のヤチュリ地域(Jatuli)やその他の世界各地でも同時代の炭酸塩岩の炭素同位体比が大きな変動を示すことがわかったので、ロマグンディ-ヤチュリ変動(Lomagundi-Jatuli event)という事変名の元になりました。

地図でいうと、この辺の地域になります→ (Google mapへのリンク)

2019年、デウェラス層群(Deweras Group)とロマグンディ層群(Lomagundi Group)から得られた砕屑性ジルコンのウラン鉛年代測定で論文を書き、Terra Novaにアクセプトとなりました。

Sawada, H., Mugandani, E. T., Sato, T., Sawaki, Y., Sakata, S., Isozaki, Y., & Maruyama, S. (2019). Age constraints on the Palaeoproterozoic Lomagundi–Jatuli Event in Zimbabwe: Zircon geochronology of the Magondi Supergroup. Terra Nova, 31(5), 438-444.

その研究に用いた岩石試料は2015年8月にこのマゴンディ累層群のサンプリングに行ったときのものです。その調査の時の様子を写真たっぷりで紹介します。

↓現地の様子はこんな感じで、露頭がぜんっぜん無い!!!
これまでにジンバブエ以外にもカナダにモンゴルにと行ってわかったことは、前期原生代や大古代の地質からなる大陸楯状地は地形がとても平坦なので、露頭を探すのがとても大変だということです。

↓清々しい青空と広がる草地。美しいジンバブエの大地ですね!露頭は無いけど!

↓ちょっと小高くなってるところにみんなで群がってみる。もしや露頭があるのでは…と。

↓ありました!デウェラス層群Deweras Group砂岩の露頭です!
粗くてザラザラしたみごとな石英アレナイトですね。ポツポツと穴が空いているのは、もともと乾燥地帯の浅いところで堆積したために蒸発岩のような硫酸塩鉱物ができていたせいだと考えられています。
論文中のZW5のサンプルがコレですね。

↓丘の上の方を通る道路の脇、切通しになっているところも貴重な露頭ポイントです。

↓丘の上の道路脇の露頭、ロマグンディ層群(Lomagundi Group)のクォーツァイトでした。

埼玉県長瀞岩畳 曇りの日の様子

このロマグンディ層群(Lomagundi Group)のクォーツァイトはもともとは石英アレナイトのような砂岩だったのが、石英の再結晶が進んでほとんど石英の塊のようになっています。
茶色いスポットは黄鉄鉱が仮晶を残したまま変質した褐鉄鉱になってました。

埼玉県立自然の博物館前の「日本地質学発祥の地」の記念碑(もちろん結晶片岩でできている)の前で記念撮影

↓数少ない川も貴重な露頭スポットです。

↓河原に降りてみると、再びのデウェラス層群Deweras Groupの砂岩。ここでは層理構造が見える。
ここが論文中のZW68の採集ポイント、3つの砂岩の中で唯一原生代の砕屑性ジルコンを3粒含んでいた砂岩です。

埼玉県 長瀞 虎岩 結晶片岩 スティルプノメレン片岩と緑色片岩はミックスされたようになっている。

↓今回は砕屑性ジルコン年代の論文ですが、石灰岩苦灰岩などの炭酸塩岩の露頭についても紹介します。
これは採石場跡地の"苦灰岩"の露頭…。

↓露頭の表面には、苦灰岩に特徴的な像皮質の風化構造が見えます。

埼玉県長瀞虎岩 結晶片岩中のスティルプノメレンの粗粒結晶

↓割ってみると、とても硬い石です。原生代の苦灰岩にありがちな、とても珪化してしまった岩石です。
この石はまだ苦灰岩の痕跡を残していますが、もっと珪化が進むと本当にクォーツァイトみたいになってきます。
石英アレナイトのような砂岩だったものからできたクォーツァイトとの肉眼的な区別は難しくなってきます。まぁ、露頭で色々と見てるとなんとなく"雰囲気"でわかりますが、やっぱり難しいです。
ちゃんと判別するなら、薄片観察してジルコンやルチルなどの陸源性砕屑物に特徴的な鉱物を含んでいれば砂岩起源のクォーツァイトであることがわかります。

埼玉県長瀞親鼻の三波川変成岩紅簾石片岩露頭 Piemontite schist of the Sanbagawa metamorphic belt in Nagatoro Saitama Japan

↓珪化してないマトモな炭酸塩岩を探し求めて、農村へお邪魔させていただくことに。

↓ジンバブエの農村。都市部はかなりインフラも整っているが、農村はほとんどが写真のような伝統的な形の住居で格差が激しそうだった。

↓村長さんが案内(という名目で事実上の御目付)してくれることになりました。

↓小高い丘なら露頭あるんじゃないか説で登ってみたものの、農村の全景がよく見えただけだった場所。

↓不完全燃焼な我々を見かねて、村長さん自身がスレッジハンマーを持って露頭を破壊し始める!
残念ながら炭酸塩岩ではなく緑色岩でした…が、露頭割れて満面の笑みの村長さんを前にして、要らないと言うことはできず持って変えることに。
まぁこうやって関係無い石も採っておくことであとから何か別の研究に使えることだってしばしばある。乱数要素は大事。

↓色々と捜し回ったのですが、結局のところまともな苦灰岩などの炭酸塩岩の露頭はほとんど無く、ボーリングしないかぎりは手に入らない模様。
冒頭の写真で示したように、そもそもがロマグンディ地域に露頭が少ないという大問題…
ここならきっと炭酸塩岩があるに違いない、と入ってみたのが、ロマグンディ地域で最大の観光地「チノイケーブ(Chinhoi Cave、チノイ洞窟)」、つまり鍾乳洞です。
しっかりと観光地なので、入場料を支払って入ることに。

埼玉県長瀞親鼻の三波川変成岩紅簾石片岩露頭のポットホール Piemontite schist of the Sanbagawa metamorphic belt in Nagatoro Saitama Japan

↓珪化していない炭酸塩岩はたくさん転がっている(当然)なのですが、鍾乳石などになる再結晶を被っているため、同位体比分析には向きません。
観光地内なので調査もあまりできず、層序学的な位置もよくわからないですし、てか石をハンマーで割ることすらできないです(当然)。

↓炭酸塩岩不発すぎて萎え萎えの一同ですが、カネ払って入場してしまったのは仕方ないのでもう観光モードで楽しむしか無くなってしまう。 が、この鍾乳洞はカネ払って入場するだけの価値はありますよ。 顕生代の石灰岩からなる日本の鍾乳洞とは違って、楯状地の古い鍾乳洞のせいか、洞窟というよりは既に天井が陥没して外から日光が差し込んでる場所が多数あります。 日光に照らされて地下水が青々と輝いていて、素晴らしく美しい場所でした。

↓チノイケーブ最大の見どころ(っぽくなっていた)場所。まるで青い鏡。
青い地下水の中には魚が泳いでいる。
高さも広さもスケールがものすごい。この奥行き感は写真で伝えるのはとても難しい…!

↓砂岩と炭酸塩岩の他に、マゴンディ累層群の基盤の太古代花崗岩類を採集しました。
太古代花崗岩類も露出は良いとはいえませんが、マゴンディ累層群の堆積岩(特に炭酸塩岩)に比べたら取り放題と行っていいくらい露頭があります。。。
特に道路脇には切り通しになっているものや、あるいは休憩して焚き火をした人たちのせいで(おかげで)雑草に火が燃え広がって露頭が見やすくなっている場所もけっこうありました。
道沿いで草がやたら燃えてる、ジンバブエの特徴の1つでしたね…。あまりに燃え広がりがひどくて道路の交通や人家に影響が出そうなときは消防車が消しに来ます。

↓花崗岩露頭のアップ。"広義の花崗岩"ということで太古代花崗岩類と呼んでいますが、岩石名としては花崗閃緑岩になります。

↓ペグマタイト脈がどーんと突き抜けてる花崗岩露頭。

↓数世代の花崗岩が入り乱れていそう。

↓放牧地の中を花崗岩の露頭求めてさまよい歩く。

↓放牧地なので当然牛が放牧されている。

こちらも道路沿いにどーんと広がる太古代花崗岩の露頭。

最後にジンバブエの大地を照らす夕焼け。まだまだ政情も経済も不安定な国ですが、その割に治安の悪さは少なく、比較的良い人が多く、なにより美しい国土を持ったジンバブエ。
研究でも観光でも、また機会があればぜひ行きたいですね。

ジンバブエの街や村野様子をまとめた別ページもあります。下のリンクから、ぜひ合わせてご覧ください!

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