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石灰岩 limestone

石灰岩(せっかいがん、limestone、ライムストーン)は炭酸カルシウム(方解石)を50%以上含む堆積岩。 サンゴやフズリナ、ストロマトライトなどの炭酸カルシウムの殻を持つ生物の死骸が堆積してできた生物堆積岩の石灰岩と、水から直接炭酸カルシウムが沈殿してできた化学堆積岩の石灰岩との両方が存在する。 石灰岩の見た目は、主要構成鉱物である方解石や霰石は本来無色または白色であるため、灰色や灰白色、白色が最も普通である。 石灰岩に含まれるその他の鉱物や有機物などによって、黒色、褐色、赤褐色などの石灰岩も存在する。
石灰岩(せっかいがん、limestone, ライムストーン) 灰色の石灰岩の岩石標本の写真
石灰岩(画像幅約4cm)

石灰岩の定義と概要

石灰岩は炭酸カルシウムCaCO3を50%以上含む堆積岩と定義され、炭酸塩岩の一種である。 石灰岩の50%以上を構成する炭酸カルシウムは、通常は方解石(ホウカイセキ、calcite)の形で存在し、まれに一部が同質異像の霰石(アラレイシ、aragonite)として含まれている。
石灰岩の構成要素は、化石(微化石を含む)や生砕物・生物骨格粒子などの生物起源物質、ウーイド・ペロイド・イントラクラストなどの非生物骨格粒子、炭酸カルシウム以外の構成要素として砂や泥などの砕屑物、それらの間隙を埋めるセメントや基質(微細な粒子)である。
顕生代の石灰岩には化石が含まれていることも多く、古生物学的にも重要である。
鉱業的な、または化学的な原材料として石灰岩を扱う際には、石灰石(せっかいせき)と呼ばれることがあるが、これは岩石名ではなく、岩石としての石灰岩以外にも炭酸カルシウムからなる鉱物や岩石を含みうるので区別が必要である。
石灰岩を構成する炭酸カルシウムの方解石や霰石は、二酸化炭素を発生させながら塩酸に溶けて塩化カルシウムになる。 この反応は希塩酸(濃度の薄い塩酸)でも二酸化炭素の泡を多量に出しながら溶けるため、フィールド調査において石灰岩を認定する際に希塩酸を形態すると便利である。

石灰岩(せっかいがん、limestone, ライムストーン) 栃木県葛生の黒色の石灰岩の岩石標本の写真
黒色の石灰岩。栃木県葛生。画像幅約6cm

石灰岩(せっかいがん、limestone, ライムストーン) 様々な色の石灰岩がある
日本各地の石灰岩。様々な色の石灰岩があることがわかる。

石灰岩は生物起源・非生物起源のいずれであっても海水や湖水の中での化学反応を経由して堆積したものであることに変わりはない。 そのため、石灰岩は過去の海水、生物活動の痕跡を探る地球科学的研究にきわめて重要な存在である。

石灰岩の分類

炭酸カルシウム以外の構成物による分類

石灰岩はドロマイト化作用を被ることで、同じ炭酸塩鉱物の苦灰石(dolomite, ドロマイト)を含むようになることがしばしばある。 方解石と苦灰石をそれぞれ2つの端成分として、方解石100-90%(苦灰石0-10%)のものを狭義の石灰岩、方解石90-50%(苦灰石10-50%)のものをドロマイト質石灰岩と呼ぶ。 方解石の割合が50%を下回ると石灰岩ではなく、苦灰岩と呼ばれるようになり、石灰質苦灰岩、狭義の苦灰岩とそれぞれ細分される。

砂や泥などの陸源性砕屑物と炭酸カルシウムが混ざった堆積岩の場合、石灰岩と砂岩・泥岩をそれぞれ端成分として、砂質石灰岩Sandy limestone、石灰質砂岩、泥質石灰岩、石灰質泥岩と細分化される。 泥質石灰岩と石灰質泥岩の境界付近のものは、特に泥灰岩(でいかいがん、marl, マール)と呼ばれることが多い。

砂岩・泥岩と石灰岩の間の堆積岩の分類
砂岩・泥岩と石灰岩の間の堆積岩の分類

生物起源物質による分類

生物起源の石灰岩のうち、特徴的に多量に含まれている化石がある場合、それらの名称を冠して「サンゴ石灰岩」「フズリナ石灰岩」「貝殻石灰岩」「有孔虫石灰岩」などと呼ぶ。

フズリナ石灰岩(栃木県葛生)
フズリナ石灰岩(栃木県葛生) 画像幅約10cm

非生物起源物質による分類

非生物起源の特徴的な炭酸カルシウムを主成分とする粒子を含む石灰岩を以下のように分類する。

ウーイド(ooid): ウーイドとは生物骨格粒子や珪酸塩砕屑物などを核としてその周りに同心円状に炭酸カルシウム(特に高Mg方解石やアラレ石が多い)が被っている粒子で、大きさは0.2~0.5 mm、大きい場合で2,3 mmに達する。 砂漠環境などの水分蒸発の激しい地域のごく浅い海岸で海水よりも高濃度の塩分を含む水の中で形成され、波の作用で回転することによって丸く成長する。 現在の地球では、中東のペルシャ湾や西オーストラリアのシャーク湾の沿岸でウーイドの形成が見られる。 ウーイドを含む石灰岩をウーライト(oolite)と呼ぶ。

イントラクラスト(intraclast): 堆積中、あるいは堆積間もない炭酸塩堆積物が波浪や潮流、潮上帯での乾燥による破砕、生物による侵食などによって侵食されて再堆積したものをイントラクラストと呼ぶ。

ペロイド(peroid): 石灰泥(ミクライト micrite)が内部構造や核を持たずに0.1~0.5mm程度の楕円形もしくは不定形に固まった粒子をペロイドと呼ぶ。 起源には色々なものがあり、腕足類や節足動物の糞が固まったもの、振生物の作用に依って生物骨格やウーイドが石灰泥のようになったもの、イントラクラストが固まったもの、などが挙げられる。

オンコイド(oncoid): 珪酸塩鉱物や炭酸塩鉱物などの核の周りに、、シアノバクテリアの作用によって炭酸カルシウムが同心円状に数ミリから10cm程度成長した構造を持つ粒子。オンコイドからなる堆積岩をオンコライトoncoliteと呼ぶ。

石灰岩の産出

石灰岩の盛んに形成されるのは主に低緯度の高温地域の、大陸縁辺部や海山などである。 大陸縁辺部の石灰岩は、河川や風によって運ばれてくる陸源性砕屑物を含んでいることが多く、炭酸カルシウムの純度は低い。 このような広い大陸縁辺の浅海部や大陸棚で大量の石灰岩の正常堆積層が形成される。有名な例ではアメリカのグランドキャニオンの地層が挙げられ、現在形成中の例としてはオーストラリアのグレートバリアリーフや東シナ海などが例として挙げられる。 対して、海山では陸源性砕屑物の供給量はきわめて少なく、炭酸カルシウムの純度の高い石灰岩が形成される。

日本で見られる石灰岩の多くは海山起源の石灰岩である。 もともとはハワイのように大陸から遠く離れた遠洋に存在する海山で形成したサンゴ礁などの石灰岩がプレートの動きによって沈み込み帯まで運ばれ付加したものである。 このような付加体中の石灰岩は砂岩・泥岩・チャート・玄武岩類などの海洋プレート層序を特徴づける岩石の中にスライスとして含まれているのが普通で、分布面積は比較的限られている。 日本ではジュラ紀付加体である秩父帯や美濃-丹波帯の中にペルム紀の海山起源のフズリナ石灰岩ブロックが多数含まれ、栃木県葛生、埼玉県秩父、岐阜県赤坂、山口県秋吉台などが代表的な例として挙げられる。

石灰岩の風化と変成

石灰岩などの炭酸塩岩が風化すると、その表面は象の表皮のような特徴的な凹凸模様ができる。このような構造を象皮状風化と呼ぶ。

石灰岩を構成する炭酸カルシウムは、二酸化炭素を含んだ雨水に溶けやすく、一般的に地表での風化・侵食速度は他の岩石よりもはるかに速い。 石灰岩の侵食によって形成される地形として、鍾乳洞、セノーテ、カルスト、天然橋などが挙げられる。

石灰岩の侵食で形成した天然橋 広島県東城町帝釈峡
石灰岩の侵食で形成した天然橋 広島県東城町帝釈峡

石灰岩が地層に挟まっていると、その層だけが他の岩石の層よりも選択的に速く侵食される。 すると、やがて石灰岩の地層の部分が窪みとなり、その上の地層がまとめて崩れるという現象が起きるようになる。 このようにして、石灰岩が挟まった地層の侵食速度が早くなることをレイヤードケーキモデルと呼ばれる。

石灰岩が変成を受けた時にできる変成岩として、結晶質石灰岩(大理石)が最も普通である。結晶質石灰岩は石灰岩を構成する方解石などの鉱物が再結晶して粗い粒になった岩石である。 マグマとの接触変成作用や高度変成作用によって石灰岩と珪酸塩鉱物を主成分とする岩石が反応すると、シリカやその他のアルミニウム・鉄・マグネシウムなどの成分が供給されてカルシウムに富んだ珪酸塩鉱物を大量に含むスカルンという変成岩になる。

石灰岩の産業利用

石灰岩は様々な工業原料として重要である。

石灰岩はセメントやコンクリートの原料、消石灰(水酸化カルシウム)などの化学工業の原料に用いられる。

また製鉄において、鉄鉱石・コークスと一緒に石灰岩を入れる。 石灰岩の熱分解で生じる酸化カルシウム(消石灰)と鉄鉱石中に含まれる珪酸塩鉱物などの不純物を反応させることで、溶融状態のままに保ち、高炉から取り出しやすくするためである。

日本に産する海山の付加で形成した石灰岩は純度が高く工業原料としては非常に優秀なものである。

海外で多産する見た目の美しい石灰岩は、建物の装飾用の石材として用いられる。また、エジプトのピラミッドの外装はかつては石灰岩で覆われていたと考えられている。

関連項目

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