埼玉県長瀞町樋口の蛇紋岩中の苦灰石脈
訪問日 2012.04.05
概要
埼玉県長瀞町は低温高圧型広域変成帯である三波川変成帯が広く見られることで有名で、特に荒川の河原には岩畳や虎岩など結晶片岩による奇岩観光地があります。
三波川変成帯中には結晶片岩内にブロック状の蛇紋岩が産します。
今回はそういった産地をターゲットに見学・鉱物採集をしてきました。
1つは長瀞町北部の樋口(ひぐち)と呼ばれる場所で、荒川の河原に5m×15mほどの蛇紋岩の露頭があります。
もう1つは長瀞町の南隣の皆野町にある荒川にかかる栗谷瀬橋近くの河原の露頭で、こちらは蛇紋岩の中に蛇紋石の一種で石綿の原料でもあるクリソタイルが産することで有名です。
以下に今回の採集巡検で訪れたルートを示します。2つめの栗谷瀬橋のほうはこちらで別途記事を立てました。
樋口の蛇紋岩露頭は結晶度の高い苦灰石脈が入っていることが特徴で、さらにその苦灰石脈に自然金が産することで鉱物マニアの間では「幻の自然金」として知られています。
通常、自然金といえば珪長質~中間質の火成岩活動にともなって形成される熱水鉱床で石英や硫化鉱物などを伴って産し、
超塩基性岩の中の苦灰石脈から肉眼的に確認できるほどの大きさの自然金が産するとは、なかなか考えにくいものです。
私自身、この産地の自然金の話は本で見たりはしていましたが、上流にあるスカルン鉱床の秩父鉱山で産する自然金が砂金となり、
うっかり苦灰石脈にくっついたのではないか(?)、などと思っていましたが、
ベテランコレクターの方が実際にここで採れた苦灰石にしっかりと自然金が噛みあって付いているのを見て疑いが晴れました。
そして今回、自分で産地を見てみたいということで訪れましたが、1つだけ、たいへん小さなものですが、自然金と思われるひも状金色の鉱物が採集されました!
秩父鉄道の樋口駅を出てすぐに南の方向へ行くと、荒川の河原へ降りるスロープがあり、瓦の露頭を観察できます。
この露頭は泥質片岩(石墨片岩)と砂質片岩(絹雲母片岩)が互層したものです。
これらの結晶片岩には~20cm程度の石英脈が貫いており、石英の小さな自形結晶(水晶)が見られることもある。
また、数cm程度に集合したクロム白雲母Fuchsiteフクサイトが見られることもあります。
露頭のアップ。
黒い部分が泥質片岩、淡緑色の部分が砂質片岩。
冒頭で紹介した20万分の1地質図ですが、非常に便利で見やすいのですが如何せん20万分の1ですので精度はあまり良くないです。
この樋口の蛇紋岩露頭は鉱物採集をするマニアにとっては大変有名な産地なのですが、その露頭の位置が20万分の1地質図ではだいぶズレてしまっています。
荒川のカーブ辺りに小さな紫色のスポットが地質図にありますが、そこには蛇紋岩はありません。実際にはもっと東へ行ったところのB地点あたりにあります。
↓荒川河原の蛇紋岩露頭全体の様子。赤い線で境界線を示した。周囲は石墨片岩。
5m×15m程度の小さな蛇紋岩ブロックの露頭である。
↓上の写真の右側にある石墨片岩の岩塊のアップ。細かな褶曲変形が著しい。
長瀞地域の結晶片岩はほぼ水平な片理構造を持つものが多いるが、ここの蛇紋岩の露頭の近辺では褶曲していた。
この石墨片岩の中から、1cm程度の鱗片状で鮮やかな浅葱色~緑色のクロム白雲母Fuchsiteが産する。
↓蛇紋岩(左)と石墨片岩(右)の境界の様子。
蛇紋岩の表面は風化によりコーリンガ石やブラグナテリ石などが生じて赤茶色になっている。
また、蛇紋岩と石墨片岩の境界部分では石墨片岩中の石英と蛇紋石が反応してできた白色~薄緑色の滑石Talcが見られる。
↓蛇紋岩の露頭中に発達する苦灰石脈の様子。
蛇紋岩の亀裂を充填するように、結晶度の高いほぼ苦灰石単独からなる脈が生成しています。ここの苦灰石脈は結晶度が高く大理石のように見えますが、方解石からなる大理石と比べると結晶粒が細長くなっているのが特徴。
というわけで、こういった苦灰石脈を叩くこと1時間近く…
母岩は蛇紋岩、苦灰石脈は劈開があったり滑石などが混ざっていたりして、割り取るのはそれほどつらくはないです。
割り取った苦灰石の様子。
滑石や繊維状蛇紋石が含まれている。微量の1~5mm程度の不定形な黄鉄鉱なども含まれていた。
また、微細ながら黄褐色の灰重石(?)も含まれており、短波紫外線で青白く蛍光を示します。
すると、なんと、その中に自然金のような金色ヒモ状の鉱物が!?
↓この石の真ん中あたりに自然金のような鉱物が付いているのですが、とても写真では見えませんね…
自然金部分をルーペで拡大して写真を撮りました。
右側の画像を見ると、金色でひも状の鉱物があるのが分かります。.
後日、さらに顕微鏡で写真を撮影してみたところ、明らかに自然金でした。
苦灰石の中に埋まった、黄金色の立派な自然金です。
とりあえず自然金が見つかって満足したので、ひとまず次の産地へ移動しました。
樋口駅から秩父鉄道に乗り、上長瀞駅へ、そして少し荒川上流の栗谷瀬橋周辺の蛇紋岩鉱物を見ることに。
続きの栗谷瀬橋周辺の蛇紋岩鉱物
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