アメリカ合衆国アリゾナ州
グランドキャニオン ブライトエンジェルトレールの地質観察
2012/03/01
平坦なコロラド高原Colorado Plateauをコロラド川が侵食して作った谷。見渡す限り地層の水平な縞模様の入った赤茶けた岩肌がずっと続くという、 その壮大な眺めは日本から訪れた地質学を学ぶ者なら誰しもが「うおー!こんなでっかい露頭見たことねー!」と思わず口走r…らないかもしれませんが(笑)、 日本のようなプレート収束帯の常識からすると想像をはるかに上回る眺めであることは間違いありません。
今回歩いたのはグランドキャニオン南岸South limにある観光用集落のGrand Canyon Villageから伸びるBright Angel Trailです。
コロラド高原Colorado Plateauの平坦な頂から、Plateau pointと呼ばれる川の水面がようやく見える場所まで、高低差約900mの道のりでした。
以下は今回歩いたルートのマップです。図中のA~Mは以下の解説に対応しています。
また、このあたりの地質図は以下のようになっています。より詳しい地図はWebで「Grand Canyon geological map」と検索すればたくさん出てきます。
(1) A地点
(2) B地点
(3) C地点
(4) D地点
(5) E地点
(6) F地点
(7) G地点
(8) H地点
(9) I地点
(10)J地点
(11)K地点
(12)L地点
(13)M地点
(14)まとめ
(1)A地点 ブライトエンジェルトレールの起点
↑Grand Canyonの圧倒的光景。
今回目指すのは画像中央にある平地の真ん中を通る小道の先端、Plateau Pointまで。
ブライトエンジェルトレイルBright Angel Trailの入口はこじんまりしています。
↑ブライトエンジェルトレイルが始まってすぐの様子。
前々日の雪により、小道の表面は凍結していて、皆すべらないようにおっかなびっくりの歩行になっていました。
このあたり、Grand Canyonの最も上の地層でペルム紀のカイバブ層Kaibab Formationで、石灰岩からなります。
↑カイバブ層の石灰岩の様子。
熱帯の浅海で沈殿した石灰岩のようで、かなり砂泥を含んでいます。灰色の部分は珪質のノジュールのようです。
「日本の石灰岩は世界に誇る資源」と社会科ではよく習いますが、正直、石灰岩くらい世界中にあるだろうと思ってましたが、
日本のような付加体中の海山スライスによるサンゴ礁石灰岩では方解石が9割を超える超高純度のものであり、
まさに世界的にも稀な資源であり、製鉄業などの繁栄に欠かせないものであると、改めて認識させられました。
↑石灰岩中のノジュールのアップ。
浅海性の堆積岩なので、かなり化石も含まれているという。
が、Grand Canyonは国立公園内なので、もちろん採集は禁止です。
(2)B地点
↑たぶん、カイバブKaibab層の一つ下のToroweapトロウィープ層の赤色砂岩。こちらもペルム紀の地層。 Toroweap層は灰色の石灰岩と赤色砂岩、シルト岩その他石膏などの浅海性堆積物からなるとされており、 こちらも化石がたくさん含まれているといいます。
↑赤色砂岩のアップ
(3)C地点
↑おそらく、Coconinoココニーノ層と思われる石灰岩とシルト岩の互層が見られた。
Coconino層は、Kaibab層、Toroweap層と来て、そのさらに一つ下の地層です。
崩れてボロボロの方がシルト岩、しっかりしている方が石灰岩。
↑石灰岩部分を少し手にとって見ると、酸化マンガン(?)の忍石状のシミが見られた。
マンガンが入ってるとも考えにくいので、酸化鉄か何かかもしれません。
(4)D地点
D地点あたりからは、西側の崖がよく見えます。↑この崖はペンシルバニア紀(後期石炭紀)~前期ペルム紀のSupai Groupスパイ層群です。
スパイ層群の特徴は、なんといってもこの壮大なクロスラミナ斜交層理にあります!
このガケに入っている黒い筋、これすべてがクロスラミナです!
↑先に歩く人達を見下ろして取った写真(左)と比べても如何に壮大なクロスラミナかがわかります!
右側の写真は、崖に近づいた時に見上げて取ったもの。
↑さらに少し行った場所から西側の崖を見ると、Supai層群の下のミシシッピ紀(前期石炭紀)のRedwall石灰岩との整合面が見られます。
こうもずっとまっすぐな整合面は日本では見れませんよね!
Redwall石灰岩はその名の通り、酸化鉄による赤色で、赤壁のようです。
(5)E地点
↑Redwall層に入る。酸化鉄で真っ赤です。
岩石は石灰岩Limestoneとはなっていますが、砂粒っぽさがあり、相変わらず純度の低い石灰岩のようでした。
(6)F地点
↑O先生がRedwall層にテフラ層のようなものを発見!
色合いはグリーンタフに近いような感じで、触ってみるとポロポロと崩れて、凝灰質砂層のような雰囲気がありました。
↑ちなみにここからの眺めはこんな感じです。
(7)G地点
↑正面の人が集まっているあたりの奥に、三角屋根が見えますが、そのへんに休憩所があります。
昼食休憩はここで取りました。
↑先程の写真で人が集まっていたあたり、露頭を見ると、なんと、温泉変質地帯のような岩石があるではありませんか!
本当にここ数mだけで、周りは何も変質した様子もありません。
白いのは珪化した感じで、黄色いのは鉄分や硫黄分が染み込んだようです。
例えば、こちらの草津白根山の周りの石などと比べればよく似ていることがわかります。
↑更によく探すと、ご丁寧に、針鉄鉱Goethiteの球状集合まであるではないですか!
これではまさに温泉の酸性熱水による変質地帯!
しかし、ここだけに温泉が湧いたとは考えにくい、なにか地下水の作用か何かがあったのでしょうか。
不思議な場所でした。
日本人的には「グランドキャニオン温泉」なるものがあれば、こんなに風光明媚な場所に露天風呂があったら最高なのに、などと思ってましたwww
(8)H地点
G地点の裏、トレイルから少し外れて開けている場所があるので、ここで昼食休憩。良い眺めです。結構な断崖絶壁がそこら中にあります。みんなで割とぎりぎりまで行って楽しむ。

一歩先に出たら死にます。終端速度に達するかどうかなどを話して盛り上がるなどw
↑ガケ下が窪みになっている…? どうやって侵食したらこんな地形になるのでしょう?この丸みは氷河地形も関係しているのでしょうか?
↑来た道を振り返る。左右でRedwallの高さが微妙に異なっているのが見れる。左側のほうが下がっている。
↑一応、休憩地点での露頭もいくつかあったので記録しておきます。
ノジュール入りの石灰岩のようでした。
ミシシッピ紀(前期石炭紀)Redwall Limestoneレッドウォール石灰岩の下に、Devonianデボン紀Temple Butte Formationテンプルバット層という、石灰岩や苦灰岩でできた地層があり、おそらくその一部だと思います。
この休憩場所にはリスがよく出ます。「エサは与えるな」と看板があるのですが、観光客が食料を持っているのをリスモ知っているようで、人間を怖がりもせずによく近づいて来ました…
(9)I地点
↑休憩後、しばらく行ったあたりでの露頭。
再結晶の進んだ様子の石灰岩が見られました。
これも先ほどの休憩地点で見たノジュール入り石灰岩と同じくDevonian Temple Butte Formation デボン紀 テンプルバット層だと思います。
左側の写真はスケールバーにTAさんを使わさせて頂きましたw
(10)J地点
↑体力的にキツい人はここで折り返しました。Grand Canyonは行きが下りで帰りが登りなので、体力にだいぶ余裕があるうちに引き返さないと、本当に戻れなくなってしまいます。 脇に見える緑がかった岩石でできた露頭は、後ほど(12)L地点でみますが、Cambrianカンブリア紀Tonto Groupトント層群Bright Angel Shaleブライトエンジェル頁岩と思われます。
(11)K地点
↑インディアンガーデンIndian Gardenと名付けられていて、このあたりは林になっていて植生に覆われて余り露頭がない…
ここのあたりからはサボテンも多く、トゲに注意が必要です。サボテンの刺はデニム地も余裕で貫通してきます。
しかも、あまり手入れされてないところだと道に向かってせり出すように成長しているサボテンもあるので、うっかり露頭ばかり探していてサボテンにぶつかることのないように!
(12)L地点
↑IndianGardenを抜けると、サボテンなどの乾燥地帯植物の平地になります。
見晴らしが楽しめる!
↑谷間を抜けたのでこのあたりは見晴らしが最高です!
サボテンがなぜか紫…
↑平地なので、露頭もこれまでほど多くはない。
これはおそらくJ地点で見たCambrianカンブリア紀Tonto Groupトント層群Bright Angel Shaleブライトエンジェル頁岩と思われる露頭。
灰緑色をしており、層理構造が明確です。また、手で持つとぽろぽろに崩れるくらいで、風化が進んでいる模様。
(13)M地点
↑ようやくプラトーポイントPlateauPointへ到着!
赤い岩場が目立ちます。
↑そしてついにコロラド川本流とご対面!
やはり本流を見ると感動しました。低くゴォーっという音が谷間に響きます。
↑コロラド川でテンションが上がる。
↑集合写真など。
皆、ハイテンションです笑
↑川を見てテンションも上がるが、やはり地層も見なければ!
ここのポイントはCambrianカンブリア紀Tonto Groupトント層群のTapeats Sandstoneタピーツ砂岩に分類されるそうです。
Bright Angel Shaleブライトエンジェル頁岩の1つ下の地層です。
この下に不整合があり、PreCambrian先カンブリア時代の変成岩や火成岩があるのですが、そこまでは今回はいけませんでした…
名前はSandstoneですが、砂岩のような場所と頁岩のような場所とがありました。どちらも沢山の生痕化石が含まれているのが特徴です。
↑石英アレナイトの砂岩の層も目立ちました。もともと砂泥互層のようになっていたのでしょうか。
砂岩の砂は、割合、粗粒に見えました。
また、ノジュールのようなものが目立つ部分もあり、これも生痕と関係在るのでしょうかね。
そして帰り道…
これがしんどい…高低差900mあるので、帰りはかなり本格的な登山になります。普通の登山と違って、先に下るので、やや体力の減った後に登ることになります。 水と食料も多めに持っていったほうが良いです。写真の通り、上の方は雪が積もっていても下は砂漠になっていてかなり暑いです。 自分は途中でエネルギー切れしてしまったので大変後悔しています。 宿に帰り着いたのは日の入り直前の時間になってしまいました。危ういところです。 十分に巡検計画を練ってください。
翌日のリムでの見学・観光はこちら↓
グランドキャニオンサウスリムGrand Canyon South Rim