群馬県草津白根山 噴気・温泉環境での鉱物採集

訪問日 2010年9月5・6日

9月3日から7日にかけて、大学の無線研究部の合宿で群馬県の野反湖キャンプ場と草津温泉に行きました。部活の合宿と言っても基本的には部員内の親交を深めるためのもので、色々と遊ぶのがメインとなっているため、部員数名を引き連れて白根火山周辺で鉱物採集と火山観察、そして温泉入浴を楽しみました。

湯釜
↑草津白根山の火口カルデラ湖である湯釜
2010.9.6.展望台より撮影. 水面に茶色い影のようなものが見えるが、これはゴム状硫黄が浮いているため

群馬県の草津白根山は東京工業大学の火山流体研究センターが研究対象としている活火山であり、草津温泉、万座温泉といった日本屈指の有名温泉はこの火山の活動によってもたらされています。白根山の地図 この湯釜、しばしば爆発したり噴気活動したりしているといいます。また、興味深いところでは、2004年10月の新潟中越地震の後に水位の上昇と大量の硫黄の浮遊が確認されたといいます。

草津白根山は現役火山であるため、至る所で噴気・温泉活動が発生しており、噴気口では自然硫黄が、酸性温泉による変質帯では明礬石や褐鉄鉱などの鉱物がそれぞれ生成しています。

(1)奥万座の殺生沢

この産地は松原聡先生の『鉱物観察ガイド』にも紹介されている産地で、明礬石やその近縁鉱物であるフーアン石、南石が採集できるとされている産地です。我々は万座ホテル聚楽(じゅらく)のわきに駐車し、沢の上流へと続く砂利道を歩いて行きました。
途中、谷の対岸には噴気口が観察され、硫黄が生成しているのが見えました(下の写真)。周囲の岩石は酸性の温泉による変質作用で白色になっています。 これは珪化作用といい、大雑把に書くと

珪酸塩鉱物+酸性温泉(主に硫酸による) → 珪酸鉱物(石英などのシリカ鉱物)+硫黄+酸化鉄

という変化が起きているためです。

奥万座の噴気口 奥万座の露頭

そこらかしこに「硫化水素注意」の看板が立っています。殺生沢はけっこう深めの谷にあり、降りるための道が見当たらないことや、硫化水素がよどんでいる可能性もあったため、沢まで降りてみることはできませんでした。仕方なしに、山側の斜面にあった褐鉄鉱に染まった露頭があったので、そこで少し虹色になっていた褐鉄鉱を拾ってきただけで、結局ここではほとんど採集はできませんでした。 右側の崩れている露頭は褐鉄鉱に染まった岩石で出来ている。褐鉄鉱単独の塊ではなく、変質した岩石の表面が褐鉄鉱皮膜に覆われている感じです。

万座温泉の旅館廃墟見学
でも、途中で野生のカモシカに遭遇したり、趣のある旅館廃墟(下の写真)があったりしたので良しとしておきます

(2)万座温泉の湯畑周辺の遊歩道

万座温泉は草津温泉と比べるとかなり奥まったところにあり、こじんまりとした温泉街です。そんな万座温泉にも小規模ながら湯畑があり、その周辺に広がる変質帯に遊歩道があり、全部で1時間弱で回れるくらいなので観光にも鉱物採集にもお勧めです。なぜか、ここの湯畑はあまり宣伝されていませんし、万座の街並みにもほとんど看板もありませんので、是非見落とさないようにお願いします。 ここでは、褐鉄鉱や明礬石の塊が楽々と採集できます。その他、採集するほどの物ではありませんが皮膜状の自然硫黄も見られました。褐鉄鉱は探せば薄膜が積み重なって干渉色が虹色になっているものも見つかります。 以下、湯畑の遊歩道を散策しながら撮影した写真を数枚ほど…↓

万座温泉 万座温泉の湯畑
万座温泉の鉱物採集鉱物産地 川底に沈殿した針鉄鉱
↑河底には褐鉄鉱がそこらじゅうに沈殿している 

万座温泉の遊歩道
↑遊歩道頂上から 見晴らしも良く、万座温泉の街並みが一望できます お勧めのスポットです!

万座温泉の鉱物採集鉱物産地(褐鉄鉱Goethite)
そして、採集した褐鉄鉱. 鉱物好きでなければ決して持って帰ろうなんて考えない石ですね…
よく見れば虹色になっている部分もあります。標本サイズ幅約15cm

(3)殺生河原

最後に白根火山と草津市街地の間にある殺生河原についてです。ここでは噴気口から自然硫黄が採集できました。 噴気口周辺の自然硫黄のでき方は、2通りが考えられます。
 ◆火山ガスに含まれている硫化水素が地表で酸素と反応し、硫黄の単体と水になる。
 ◆火山ガスに含まれる硫化水素と二酸化硫黄が、低温の地表付近では反応して硫黄の単体と水になる。
どちらにしても、硫黄の単体のみが蓄積、結晶として成長し、水のほうは水蒸気や蒸気(水滴)として空気中に拡散していきます。火山国日本では、箱根の大湧谷、青森の恐山、栃木の那須山など全国各地でこのような産状が見られます。 草津白根山の殺生河原は白根火山ロープウェーの山麓駅から徒歩2分ほどのところにあり、遊歩道も整備されているものの、自動車に対しては「硫化水素が危険だから駐停車厳禁」という看板を立ててあったり、遊歩道に設置してある警報機からはときにサイレンの音とともに「硫化水素濃度が著しく上昇しています。ただちに退避してください」などという恐ろしげな放送がガンガンと流れたりと、危険な雰囲気いっぱいの場所です。 我々はロープウェーの山麓駅の駐車場に車を停め、そこから徒歩で殺生河原に向かいました。路線バスの殺生河原バス停もロープウェーの山麓駅のところにあります。硫化水素の警報が遊歩道のほうから鳴り響いている中、急いで道路脇のフェンスの中にある小規模な活動中の噴気口をハンマーで割りとって自然硫黄を採集しました。

草津白根山殺生河原の温泉噴気変質帯   草津白根山殺生河原の温泉噴気変質帯

殺生河原の周辺は、あたり一面が変質している.

草津白根山殺生河原の温泉噴気変質帯_噴気孔に生成した硫黄の結晶(自然硫黄)

噴気口のもともとの様子 外側は急速に冷却されるため、細かい針状結晶が成長している

草津白根山殺生河原の温泉噴気変質帯_噴気孔に生成した硫黄の結晶(自然硫黄)

噴気口を割ると中には無数の斜方硫黄の骸晶が稲妻状の形に成長していた!(画像幅約30cm)
 モクモクと水蒸気や火山ガスが湧き出る噴気口の中に成長した無数の結晶と毒々しい黄色の光景は壮観だった!感動!!!

自然硫黄の標本

↑採集した硫黄の結晶 噴気口で噴気を浴びてホカホカのときと比べると色が薄くなってしまう

自然硫黄の結晶
↑自然硫黄の結晶のアップ。
 稲妻状の骸晶が成長している様子がよく分かる。 

なお、硫黄の結晶は大変もろく、特に、立派な群晶などはすぐに折れてしまうので、採集の際は必ずタッパウェアーなどの容器を持参するとよいでしょう。私は今回はこんなにとれると思っていなかったため、余り用意せずに来てしまったため、良質な硫黄結晶は沢山は持ち帰れませんでしたが、ペットボトルと新聞紙とティシュペーパーで何とか上の標本は守って持ち帰れました。
また、採集した硫黄の保管にも注意が必要です。斜方硫黄と単斜硫黄は、ともに硫黄原子が8個連なった硫黄分子がファンデルワールス力で結びついてできた分子結晶のため、長い目で見ると硫黄分子が昇華していき、美しかった結晶も徐々に崩壊してしまいます。しかも、その昇華した硫黄分子は空中の水蒸気と反応して硫酸や亜硫酸等に変化し、標本箱、ラベル、標本棚の周りの鉱物などを腐らせてしまいます。
こういったことを防ぐのに一番手軽なのは食品保存などに使うタッパウェアーなどのプラスチック製密閉容器を用いることです。完全に防げるとは言えませんが、100円ショップのものでも密閉しておけばそれなりに効果はあると思います。

なお、あまり綺麗ではない標本だからといって油断して紙の小箱に入れておいたら完全にラベルも小箱もボロボロにされてしまった例。

万座温泉の鉱物採集鉱物産地(自然硫黄NativeSulfer)  万座温泉の鉱物採集鉱物産地(自然硫黄NativeSulfer)

緊急措置ということで、問題の硫黄標本はビニル袋にしまいこみました。 古本屋とか図書館とかの古ーい本でたまに見かける、触っただけで紙がポロポロと崩れてしまう、そんな状態にたった1カ月でなってました…

万座温泉の鉱物採集鉱物産地(自然硫黄NativeSulfer)鉱物標本保管方法

主要な硫黄標本はちゃんとタッパーウェアーで密閉してあるので、特に変質している様子はまだなかった。

※言うまでもないことですが、殺生河原は硫化水素が湧きでていて危険な場所ですので、採集に夢中になりすぎて命を落とすことのないようくれぐれも注意してください...


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