自然硫黄 native sulfur

自然硫黄(しぜんいおう、native sulfur, ネイティブサルファー)は硫黄単体からなる鉱物で、元素鉱物の1種である。 化学組成はS、結晶構造は直方晶系、モース硬度 1.5~2.50、比重 2.0である。
自然硫黄の色は、結晶性の良いものは黄色、微粒子や被膜状のものは淡黄色~黄白色である。
主に火山およびその周辺の噴気孔に於いて形成される他、温泉沈殿物として生じるもの、蒸発岩の中に生じるもの、熱水鉱床・ペグマタイト鉱床・スカルン鉱床、また変質帯などにも産する。
自然硫黄(しぜんいおうnative sulfur) 群馬県草津白根山)
自然硫黄(群馬県草津白根山)

自然硫黄の特徴

自然硫黄の色は結晶性の良いものは明るい黄色で、樹脂状の光沢を持つ。 結晶サイズの小さい被膜状、粉末状のものは淡黄色~黄白色である。 その他、不純物によって褐色、オレンジ色などを呈する自然硫黄もある。

常温常圧で安定な硫黄の同素体は直方晶系であり、これが自然硫黄である。一方で、高温から急冷すると単斜晶系の同素体が得られる。 これは鉱物学的には自然硫黄の多形(同質異像)の鉱物種という扱いになり、ロジッキー石(Rosickyite)と呼ばれる。

自然硫黄の透明な結晶は肉眼的にも顕著な複屈折を示すが、これが観察できることは極めて稀である。

自然硫黄の産出

自然硫黄の最も代表的な産状は、火山およびその周辺の噴気孔である。 火山ガスには硫化水素(H2S)と二酸化硫黄(SO2)が含まれているが、これらの気体は地表付近へ到達すると温度が下がることにより水(H2O)と硫黄単体(S)へと化学変化する。 この硫黄単体が結晶化することで自然硫黄が生じる。 この反応で形成される自然硫黄は反応速度が速いので、しばしば針状結晶や骸晶になる。

噴気孔に生じた針状の自然硫黄(しぜんいおう native sulfur) 群馬県草津白根山)
噴気孔に生じた針状の自然硫黄(群馬県草津白根山)

火山の周辺では、噴気孔だけでなく温泉沈殿物として生じる被膜状、球状などの自然硫黄がよく見られる。球状のものは温泉が噴出した際の雫からできるとされている。

噴気孔、あるいは温泉沈殿物として形成したある程度の量の自然硫黄が火山活動の活発化などによって加熱されると、溶融して流下することがある。 溶融した鉱物なので、これはある種のマグマであり、その固化物は硫黄単体からなる火山岩と見なせなくもないが、通常はそのような扱いはしない。

一方で、火山活動に関連したより地下深部で形成される熱水鉱床・ペグマタイト鉱床・スカルン鉱床、また変質帯などにも産する。 水晶の包有物(インクリュージョン)として微細な自然硫黄が産することもある。自然硫黄の包有物の色によって淡黄色に見える水晶はレモン水晶と呼ばれる。

硫化鉱物や硫酸塩鉱物など元素としての硫黄を含む鉱物が、地表付近で風化、変質などの作用を受けることによって二次的に自然硫黄を生じることがある。

イタリアのシチリア島では大きく自形のよい自然硫黄が多量に産出することで有名である。 このシチリア島の自然硫黄は、石膏方解石などからなる蒸発岩が続成作用によって硫黄分が分離して自然硫黄の結晶が成長したと考えられている。

自然硫黄の産業的利用

単体の硫黄は火薬・爆薬原料として古くから重要であった。近代になってからはマッチの火薬、ゴムへの加硫や硫酸原料など様々な化学工業原料として硫黄の単体は重要であるため、 自然硫黄は硫黄鉱石として世界各地で大規模に採掘された。 火山のたくさんある日本では特に自給のできる資源として自然硫黄は北海道から九州に至る全国各地の火山周辺で採掘された。

しかし1960年代以降、日本では石油精製の脱硫によって得られる副産物から大量の硫黄の単体が得られるようになった。 そのため、自然硫黄を鉱石として採掘している鉱山は壊滅的な打撃を受け、現在、日本には自然硫黄鉱山は残っていない。

関連項目

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