2019 東赤石かんらん岩体と赤石鉱山

The Higashi-Akaishi ultramafic complex in the Sanbagawa metemorphic belt - Ehime Pref., Shikoku Island, southwest Japan

巡検の概要

東赤石かんらん岩体(ひがしあかいしかんらんがんたい)は、愛媛県東赤石山(ひがしあかいしやま)の頂上付近に東西約5 km、南北約3 kmにわたって露出する三波川変成岩中で最大の超苦鉄質岩体である。
本岩体のかんらん岩はほとんどがダナイトからなり、それらの多くは蛇紋岩化や地表付近での変質が進んでいる。
近年の様々な分析により、本岩体は沈み込み帯大陸プレート下のマントルを構成していたかんらん岩が三波川変成帯とともに上昇してきたものだと考えられている(Mizukami et al., 2004; Hattori et al., 2010)。さらに本岩体内には大小様々なクロム鉄鉱岩(クロミタイト)が存在し、赤石鉱山として1910~1986年の間クロム鉱の採掘がなされてきた。クロム鉄鉱岩は様々な構造場の苦鉄質岩/超苦鉄質岩体の中に形成されるが、赤石鉱山のものは他と比べてかなり深い場所で形成された”超高圧クロム鉄鉱岩”(UHP chromitite)として希少な研究対象である(Miura et al., 2018)。また、赤石鉱山は愛媛閃石(クロムパーガス閃石)の原産地としても知られている(Hamane et al., 2012)。
2019年8月に自分を含めて4人で東赤石山に登り、赤石鉱山のズリ石および露頭にて鉱物や岩石の観察をしたので、その様子を本稿にて紹介する。

日の出直後の6時半頃、瀬場登山口より東赤石山登山を開始し、赤石山荘に10時過ぎに到着した。登山道は比較的よく整備されており危険はあまり無いが、一般向けの観光地では無いのでところどころ間違えやすい場所があり、地図の携行は必須である。道中に見られる岩石はほとんどが三波川変成帯の結晶片岩であるが、終盤から風化して赤茶色の被膜に覆われた超苦鉄質岩が現れるようになる。

巡検の様子

↓瀬場登山口の様子。簡易トイレと自動車2台くらいを止められるスペースがある。

↓瀬場登山口から少し登ったところ

↓はじめは山腹の斜面を歩く登山道ですが、徐々に沢沿いのルートになる。

↓途中でハシゴや丸太橋や釣り橋などを何度も渡ることになる。

↓丸太橋や釣り橋などは見た目のボロいところも多々あったけど、大体のものはしっかりできていたので、転落の心配は無さそう。でも気をつけて。

↓分岐道。今回は西寄りのルートでなるべく素早く稜線を目指す。

埼玉県長瀞岩畳 曇りの日の様子

↓沢沿いのルートと、沢から離れて山腹を歩く場所とを何度も繰り返す。 沢沿いは肌寒いくらいの凉しさだが、山腹は日が高い時間になってくるとだいぶ蒸し暑い。

埼玉県立自然の博物館前の「日本地質学発祥の地」の記念碑(もちろん結晶片岩でできている)の前で記念撮影

↓第一渡渉点で記念撮影。わりとサクサク来れた気がするけど、結構休み休みゆっくりと歩いている。

↓第一渡渉点の河原に降りてみると、変形構造の激しい結晶片岩が。おそらく砂質片岩でした。

↓第一渡渉点の結晶片岩の中には緑閃石(アクチノ閃石, actinolite)の結晶が成長した部分が!三波川変成帯では、こういうほとんど緑閃石のみから岩石が超苦鉄質岩と珪質な岩石の境界部分にしばしば見られる。これも、おそらく、もともとは超苦鉄質岩の塊であったものが、周りの珪質な岩石と反応し、緑閃石になったのだろう。

埼玉県 長瀞 虎岩 結晶片岩 スティルプノメレン片岩と緑色片岩はミックスされたようになっている。

↓緑閃石(アクチノ閃石, actinolite)の結晶アップ画像。径5 mm程度に達する柱状の透明感のある結晶の集合体になっている。ただし、かなり脆い岩石なので、きれいに割り取るのは難しい。

↓第一渡渉点の後も、沢沿いになったりもう少し高い斜面沿いになったりしながら進んでいく。あまり代わり映えはしない。

埼玉県長瀞虎岩 結晶片岩中のスティルプノメレンの粗粒結晶

↓そして沢から離れて、ややキツい斜面をつづら折りで急激に登っていくところへ差し掛かる。稜線まであと少しだが、これがとてもとてもキツい。
このあたりから森の木々の密度が薄まり、沢から離れたこともあってかなり暑い。 最後の方はつづら折り3回に1回休むようなペースになってしまった。
このつづら折りから、ずっと蛇紋岩やかんらん岩のような超苦鉄質岩の転石が見られるようになる。超苦鉄質岩は風雨にさらされると表面が赤茶色になる。

埼玉県長瀞親鼻の三波川変成岩紅簾石片岩露頭 Piemontite schist of the Sanbagawa metamorphic belt in Nagatoro Saitama Japan

↓つづら折りを突破すると、涸れ沢へ差し掛かる。稜線までもうすぐそこ。

↓森林を抜け、東赤石山頂上が姿を表してテンション爆上がりしている一同。

↓赤石山荘。2019年8月時点出はまだ営業していたが、もうすぐ閉店してしまうとのこと。悲しい。

↓赤石山荘の脇を抜けて、石室越方面の西側の稜線へ向かう。

↓高山植物の花が沢山咲いていた。

↓赤石山荘から西側へ行く道はしばらく明るい林の中を通るが、ほどなくガレ場のようなところへ出る。この付近にはたくさんの蛇紋岩に加えて比較的新鮮なかんらん岩が落ちており、層状のクロム鉄鉱が含まれているものも見られる。
実は帰り道に分かったことだが、"赤石鉱山"はこのズリの真上にあった。が、行きの際にはそんなこと知らなかったので、さらに西へ向かい、石室越から稜線へ出る道を選んだ。

↓稜線へ出たところ。とても見晴らしが良い。

↓稜線から眺めた瀬戸内海側のパノラマ写真。雲海の隙間から関川やその下流の街、そして瀬戸内海まで見える。

↓稜線は完全に超苦鉄質岩体の中なので、露頭はすべて超苦鉄質岩になっている。典型的なものの見た目はこんな感じ。網目状に繊維状蛇紋石の脈が走っている。

↓超苦鉄質岩露頭のアップ。

↓稜線よりやや下の北側斜面に見つかった中央にクロム鉄鉱脈を含むダナイトの露頭。赤石鉱山のズリはこの露頭から下へ北側斜面に点在している。先程の登山道沿いの層状のクロム鉄鉱を含むダナイト転石のところまでずっとハイマツ地にクロム鉄鉱を含む転石が点在している。

↓クロム鉄鉱脈を含むダナイト露頭のアップ。

↓ズリで見つけたクロム鉄鉱岩と青空。ズリのクロム鉄鉱岩を大別すると、この写真のようにクロム鉄鉱とかんらん岩(蛇紋岩化したものもある)が噛み合っている黒色のものと、クロム鉄鉱と菫泥石が噛み合っている赤紫色のものとがある。

↓坑道の跡? 水没した竪穴があった。

山田(1953)に詳しい地図があるが、今回行った愛媛閃石の産するズリは五坑鉱体と呼ばれる赤石鉱山の一部でしかなく、本坑は北側斜面にある。
東赤石かんらん岩体の各地にクロム鉄鉱岩が産し、採掘されてきたようである。鉱物マニアがどの程度探索しているのかはわからないが、他の鉱体においても新たな発見があるかもしれない。今回は日帰りでの登山であったが、さらなる産地の探索をするには赤石山荘付近でキャンプを張るのが望ましいだろう。赤石山荘の営業が2019年で終わってしまうのがとても残念だ。

今回の東赤石山登山のコースタイムをまとめると以下のようになる。
06:25 瀬場登山口出発
06:45 瀬場分岐着
06:50 瀬場分岐発
07:25 木橋(送電線下の東廻りルートとの分岐)
08:35 第1渡渉点
09:05 第2渡渉点と間違えた小さな滝の下
09:25 第2渡渉点(スズメバチやアブが多いので注意)
09:45 つづら折りの登道、かんらん岩転石が増えてくる
10:15 赤石山荘
10:25 クロム鉄鉱入のかんらん岩転石
10:55 石室越
12:00前くらい ズリ捨場発見
12:55 撤収開始、10:25 クロム鉄鉱入のかんらん岩転石ポイントまで直下に降りられた
13;50 東進して権現越のエクロジャイトを目指すものの時間と体力の限界から断念
14:10 赤石山荘東の分岐まで戻ってきた
15:20 第一渡渉点
15;40 緑閃石採集の後、第一渡渉点出発
16:40 木橋
17:25 瀬場分岐
17:55 瀬場登山口へ帰還

参考文献

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