クラウジウスの原理とトムソンの原理が等価であることの証明

クラウジウスの原理
「熱は高温物体から低温物体へと移動し、低温物体から高温物体へ自発的に移動するということはない」
言い方を少し物理っぽくすると「他に何の痕跡も残さずに、低温物体から高温物体に正の熱を移すことはできない。」

トムソンの原理:
「熱効率100%の熱機関を作ることはできない」
すなわち、「吸収した熱をすべて仕事に変えることはできない」
またもや物理っぽく厳密な言い方をすると、「1つの熱源から正の熱を受け取り、これを全て仕事に変える以外に、他に何の痕跡も残さないようにすることはできない」

いまでこそ熱力学第2法則として高校や大学の授業で当たり前に学習していますが、歴史的にはもともとは「クラウジウスの原理」や「トムソンの原理」という経験的に知られていたことを言葉で言い表しただけのものでした。
クラウジウスさんとトムソンさんがそれぞれ違う言葉を述べたというわけですが、この2つがクラウジウスの原理とトムソンの原理が等価であることがカンタンに証明できます。
そして現代社会ではカンタンに証明できない学生は熱力学の単位を取るのが難しいです。

クラウジウスの原理とトムソンの原理が等価であるという証明には論理を述べるだけで、数式は出てきません。
「トムソンの原理が正しいならばクラウジウスの原理が成り立つ」「クラウジウスの原理が正しいならばトムソンの原理」という2つに分けて、それぞれが完全に同等のことを言ってると証明します。
それぞれに対偶法(背理法)を使います。対偶法とは「AならばB」が成り立つ時に必ず「BでないならAでない」が成り立つという対偶の論理を利用することです。

(i)「トムソンの原理⇒クラウジウスの原理」の証明

クラウジウスの原理が成り立たないとする。
⇒低温物体から高温物体へほかに何の変化も残さずに熱が移動可能

高温熱源から熱機関へQ2の熱が流れ、
熱機関が仕事W(=Q2ーQ1)をして、
熱機関から低温熱源へQ1の熱が流れるというサイクルにおいて、
上記の過程が正しければ、Q1の熱を低温熱源から
高温熱源に移動するという過程が可能である。

先のサイクルにこの過程も合わせると、高温熱源から熱機関が
Q2−Q1の熱を得てそのすべてを仕事に帰ることができる、ということになり、
トムソンの原理に反する。

(ii)「クラウジウスの原理⇒トムソンの原理」の証明

トムソンの原理が成り立たないとする。
⇒高温熱源からQ2−Q1の熱量を受けて、正の仕事W(=Q2−Q1)を
 外部に対して行う熱機関C1が存在する。

このとき、低温熱源から熱Q1を、仕事W(=Q2−Q1)によって汲み上げて
高温熱源に流すヒートポンプPを考える。

熱機関C1とヒートポンプPを組み合わせた熱機関C2を考えると、
低温熱源から高温熱源へ熱Q1を他に何の変化も及ぼさずに流すものとなり、
クラウジウスの原理に反する。

以上2つより、トムソンの原理とクラウジウスの原理は同値(等価)であることが証明された。

類題

(1)摩擦現象が不可逆過程であることを証明せよ。
(2)熱伝導現象が不可逆過程であることを証明せよ。
(3)理想気体の真空中での断熱自由膨張は不可逆であることを示せ。
(4)クラウジウスの原理は「高温物体から熱を受け取り、これを低温物体に与える以外に何も変化を残さないようなサイクルは不可逆である」という主張と同値である事を示せ。

類題の解答

(1)背理法を用いる。
 物体の運動エネルギーが摩擦熱になり減速、静止するという現象は可逆的だと仮定する。
⇒摩擦熱を物体から受け取り、仕事に変えて、他に何も変化を残さないことが可能。
⇒トムソンの原理に反する。
⇒摩擦現象は不可逆過程である。

(2)
これも背理法を用いる。
 熱伝導現象は、低温の物体と高温の物体を接触させておくと、高温の物体から低温の物体へ熱が伝導し、
 低温の物体の温度が上がり高温の物体の温度が下がることである。
 この過程が可逆過程だと仮定する。
⇒低温の物体から高温の物体へ熱を映し他に何も変化を残さないことが可能。
⇒クラウジウスの原理に反する。
⇒熱伝導現象は不可逆過程である。

(3)
気体が真空に対して断熱膨張しても、p=0のため仕事=pΔV=0となるため、内部エネルギーは変化しない。
理想気体の場合は、内部エネルギーは温度だけの関数のため、自由膨張では温度も変化せず一定である(この時の温度をTとおく)。

題意の自由膨張が可逆であると仮定する。
⇒膨張した気体を元の体積に戻しほかに何の変化も残さないようなサイクルCが存在する。
この仮定のもとで、以下のような変化を考える。

元の体積にある理想気体を温度Tの熱源に接触させ、準静的に(可逆になるようにゆっくりと)等温膨張させる。
このとき、気体は外に対して仕事を行うが温度一定なので内部エネルギーも一定である。
よって気体は熱源から正の熱量を受け取ることになる。
このようにして気体を自由膨張の時と同じ堆積まで膨張させ、次に仮定のサイクルCを用いて気体を元の体積に戻すことを考える。
全体としてこれを見ると、この気体はサイクルをおこなって1つの熱源から熱を受け取り、これを全て正の仕事にする意外に何の変化も残さないサイクルになり、トムソンの原理に矛盾する。

【熱源 T】―熱→(気体)←―
          ↓膨張 ↑サイクルC
         ( 気 体 )

よって、サイクルCは存在せず、理想気体の真空への断熱自由膨張は不可逆である。

(4)
題意のサイクルが可逆であると仮定する。
⇒低温物体から熱を受け取り、それを高温物体に与える以外に何の変化も残さないようなサイクルが存在する。
⇒クラウジウスの原理に反する。
逆に、主張のとおり不可逆であるとする。
⇒低温の物体から熱を受け取り、それを高温物体に与える以外に何の変化も残さないようなサイクルが存在しないことになり、クラウジウスの原理が成り立つ。

よって、この主張はクラウジウスの原理と同等である。

(問題文ではサイクルなどと仰々しいことを書いているが、これは高温物体から低温物体への熱伝導が不可逆であることを示している。
………しかしまぁ、熱力学というのは「高温物体から低温物体への熱伝導が不可逆」という経験法則を元にして組み立てている、
と考えるとこの証明は果たして必要なのかどうか…、なんて考えてしまうのですが、まぁこういう問題もあるということで、参考までに)

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