埼玉県東秩父村朝日根の緑色岩類とパンペリー石

訪問日 2015年7月3日

採集の概要

2015年7月、パンペリー石の鉱物採集産地として有名な埼玉県東秩父村朝日根のを訪れました。今回は鉱物採集が目的ではなく、研究で行う岩石学実験の材料として緑色岩を採集するために訪れました。 採集の目的は、沈み込み帯の海洋プレートを模擬した岩石の変形実験で用いる緑色岩です。 玄武岩質で結晶片岩のような高圧変成まで到達せず、それでいて細脈の貫入や風化の影響を受けていないような緑色岩のサンプルを手に入れるのはなかなか難しいのですが、 そんな中、高校の頃に鉱物採集で訪れた東秩父村朝日根を思い出しました。 2008年2月当時の採集の様子はこちらの記事「埼玉県東秩父村朝日根のパンペリー石」で長いこと公開されていましたが、 7年ぶりの産地再訪となったのでバージョンアップした現地情報をこちらで公開したいと思います。 実験の都合でどうしてもこの時期に行かざるを得なかったのですが、梅雨真っ盛りの中だったので雨中の採集になってしまいました。 写真のクォリティも低めですが、どうかご容赦ください。

埼玉県東秩父村朝日根 鉱物採集産地情報 パンペリー石 地質図

東秩父村の西部に広がる朝日根エリアには秩父帯の付加体に含まれるMORB(中央海嶺玄武岩)起源の緑色岩と、巨大海山が付加して形成した御荷鉾緑色岩との2種類が観察できます。 このエリアで産するパンペリー石・オンファス輝石・曹長石などの鉱物採集のターゲットとなる鉱物は全て後者の御荷鉾緑色岩体の中に生じた変成鉱物です。

フィールドノート

Point 1 小学校(廃校)前の河床露頭 秩父帯の赤色頁岩とMORB

埼玉県東秩父村朝日根 御荷鉾緑色岩中のパンペリー石と曹長石 鉱物採集産地情報  埼玉県東秩父村朝日根 御荷鉾緑色岩中のパンペリー石と曹長石 鉱物採集産地情報 

(左)廃校になった小学校の前のあたりの河原で秩父帯の赤色頁岩とMORBが観察できます。通常の海洋プレート層序ではMORBの上には赤色チャートが累重しますが、陸源性堆積物の供給量が多い場合には赤色頁岩になることもあります。 (右)玄武岩には方解石質の細脈が沢山走っており、とてもではないけど変形実験に使えるような状態のものはありませんでした。

埼玉県東秩父村朝日根 御荷鉾緑色岩中のパンペリー石と曹長石 鉱物採集産地情報  埼玉県東秩父村朝日根 御荷鉾緑色岩中のパンペリー石と曹長石 鉱物採集産地情報 

(左)玄武岩中の石英脈、幾つかの世代にわかれて多数の脈が入っている。これらは付加体の中のどんなテクトニクスの痕跡なんだろう…
(右)質は悪いですが、いちおう赤碧玉が見られました。枕状溶岩など海底に噴出した玄武岩が珪質深海堆積物を巻き込みながら熱水作用で形成した玉髄で、インターピローチャートと呼ばれることもあります。

Point 2 河原の公園(?)内の転石

埼玉県東秩父村朝日根 御荷鉾緑色岩中のパンペリー石と曹長石 鉱物採集産地情報 

先ほどの小学校から3kmほど上流に行った場所に、河原の親水公園のようになっている場所があります。 ここで河原に降りると、多数の緑色岩の転石があり、その中にはパンペリー石を含んでいるものもいいくらか見られます。 また、曹長石による白色の脈が入った緑色岩も見られます。一部は脈が太くなって曹長石の自形結晶が観察できます。
写真はこの公園の中の緑色岩の中に見られたパンペリー石の細脈。

Point 3 パンペリー石原産地の露頭とその周辺の転石

これまで鉱物採集の関連書籍で数多く紹介されていた砂防ダム近辺の様子を紹介します。 もともと朝日根は鉱物採集として広く知られるようになったのは、この砂防ダムの工事に伴い10cmにも達するような太い パンペリー石の脈が出たためです。現在では砂防ダムに隠されてパンペリー石の脈そのものは露頭では観察できません。 上で紹介した下流側と同じように、河原の転石からパンペリー石の細脈を採集する形になります。 砂防ダムの脇にはかろうじて緑色岩の露頭が残されており、地質的な観察は可能です。一部は断層の影響で強くシアーされていて葉理が発達しています。

埼玉県東秩父村朝日根 御荷鉾緑色岩中のパンペリー石と曹長石 鉱物採集産地情報 

露頭のパノラマ写真。左手に写る砂防ダムの建設工事にともなって立派な放射状結晶集合となったパンペリー石の脈が産した。 右手の部分に写る岩が現在かすかに残されている露頭である。

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(左)露頭のアップの写真。マッシブな緑色岩からなるが、ブロック状に(細脈を介して?)風化が進んでいる。 高校生の時にここに来た際は、この露頭から曹長石の自形結晶からなる細脈を採集した気がしたが、現在ではこの露頭自体は鉱物採集の対象とするのは難しそうだ。
(右)露頭の北側(写真の右側)はシアーされており、葉理構造が発達している。断層が通っていると考えられる。

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(左)砂防ダムの様子。増水しており転石も余り見られないが、木々とコケの新緑がとても鮮やかで美しかった。
(右)下流側を臨んだ様子。中央のとてもたのしそうな人物はPDのA氏。この転石の中にパンペリー石や曹長石の細脈を含んだものが多数見られる。いちおうの鉱物採集はたのしめる状況だった。

まとめ

前回行った時はまだ高校生の時、7年も前でしたがさらに季節が真冬の2月で、今回は梅雨も末の7月、 季節の違いがこれほどまで大きいとは思ってませんでした。かすかな記憶を頼りに露頭の位置を探しましたが、 新緑の生い茂った木々の葉がとても濃くて少し戸惑いました。当然、増水もしているので、この産地で採集をするならやはり秋冬がおすすめです。


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