Gozaisho Mine,Iwaki,Fukushima Pref.,Japan
福島県いわき市御斎所鉱山

1. 地質概要

 御斎所鉱山は福島県いわき市にあった変成層状マンガン鉱床のマンガン鉱山である。鮫川の支流の沢に坑口を持つ。経済的な意味での規模は小さなものであったが、日本を代表するマンガン鉱物の産地の1つとして有名である。
 周辺の地質は阿武隈変成岩と呼ばれ、白亜紀中頃の花崗岩類貫入による高温型の変成岩である。御在所鉱山の周辺は、原岩がチャートからなる珪質片麻岩からなり、御斎所鉱山の近辺の至る所で片麻岩の露頭が見られる。チャートに含まれていた深海堆積性の二酸化マンガンが変成されて鉱床となったものである。
 阿武隈変成岩の原岩は180 Ma(ジュラ紀)の付加帯で、玄武岩などの塩基性岩、チャート、砂泥質岩などが変成した岩石がそれぞれ観察される。阿武隈変成岩は、熱変成作用の元となった花崗岩類と合わせて阿武隈帯と言われるが、この地帯構造区分は西南日本の領家帯と連続している。しかし、阿武隈帯の多くの場所で変成過程はやや複雑で、原岩が一度120 Ma以前に緑簾石角閃岩相程度の広域変成(三波川変成帯のような変成作用?)を受けたのち、100 Ma(白亜紀中頃)に花崗岩類の貫入によって接触変成を受けていると考えられている。

2. 産地と産状

 鮫川から下流へと徒歩で20分ほど歩き、目的の沢にアプローチする。ところどころ、浅瀬の水中を歩かなければならない場所があるため、長靴は持っておいた方が良い。また、鮫川が増水していると長靴でも歩けなくなる水深になるので、天候などに注意して、事前に計画を持って行動することをおすすめする。
 沢の多くの石はマンガン鉱石で、黒い二酸化マンガンの皮膜の間から、バラ輝石などのピンク色系の鉱物が顔を覗かせている。これらを割って鉱物採集をするが、変成マンガン鉱床の鉱石はとても堅いので、大型のハンマーが必須となる。
福島県いわき市御斎所鉱山の鉱物・岩石と地質、地球科学/鉱物採集産地情報 福島県いわき市御斎所鉱山の鉱物・岩石と地質、地球科学/鉱物採集産地情報
↑産地付近の様子。左は鮫川河原、右は目的の鉱物産地のある沢の様子。

3. 観察される鉱物

◆御斎所鉱山で観察される鉱物種一覧

・高温で高い変成度によって生成した鉱物
マンガンの酸化数は還元的なMn2+となっている。(マンガンを含むものを太字で示した)

テフロ石(マンガンカンラン石) Tephroite
満礬柘榴石 Spessartine  
鉄礬柘榴石 Almandine
マンガンヒューム石 
アレガニー石 alleghanyite
園石 Sonoite
ブラウン鉱 Braunite
チタン石 Titanite(くさび石 sphene)
斜灰簾石 Clinozoisite
緑簾石 Epidote
菫青石 Cordierite
苦土電気石 Dravite
エジリン(含マンガンエジリン) Aegirine
マンガノグリュネル閃石(ダンネモラ閃石)  Manganogrunerite(Dannemorite)
マンガノカミントン閃石(チロディ閃石) Manganocummingtonite(Tirodite)
透閃石 Tremolite
緑閃石 Actinolite
苦土普通角閃石 Magnesiohormblende
リヒター閃石 Richterite
南部石 Nambulite
白雲母 Muscovite
金雲母(含マンガン金雲母、黒雲母)
ヘルビン Helvite
曹長石 Albite
石英 Quartz

磁鉄鉱 Magnetite
赤鉄鉱 Hematite
チタン鉄鉱 Ilmenite
パイロファン石 pyrophanite
ローメ石 (含セリウム) Romeite(Containing Cerium)

・やや低温部の低変成作用 または 後退変成作用時にできたもの
 Mn3+を含む鉱物も存在するものを便宜的にこのようなタイトルでまとめた。変成作用についての詳細は後述。

ハウスマン鉱 Hausmannite
磐城鉱  Iwakiite (御斎所鉱山で発見された新鉱物 Mineralogical Journal Vol. 9 (1978) No.7 P 383-391)
ヤコブス鉱 Jacobsite
ラングバン石(ロングバン石) Langbanite  (Mn,Ca,Fe)++4(Mn,Fe)+++9Sb+++++Si2O24
緑マンガン鉱 Manganosite

緑泥石  Chlorite
ガノフィル石 Ganophyllite
ネオトス石 (ガラス状非晶質) Neotocite

フッ素燐灰石(含砒素)  Fluorapatite(Containing Aresnic)

・変成作用の末期生成物(=熱水などの流体の作用が関わったと考えられる鉱物)
 主に硫化鉱物、硫酸塩鉱物、炭酸塩鉱物などであるが、御斎所鉱山ではヒ酸塩鉱物を特徴的に産し、国立科学博物館の松原聡を中心として集中的に記載研究が行なわれた。

閃マンガン鉱(アラバンダ鉱) Alabandite
黄鉄鉱 Pyrite
磁硫鉄鉱 Pyrrhotite
硫砒鉄鉱 Arsenopyrite
黄銅鉱 Chalcopyrite
斑銅鉱 Bornite
輝銅鉱 chalcocite
方輝銅鉱 digenite
デュルレ鉱 Djurlerite
阿仁鉱 Anilite
ヤロウ石(ヤロウ鉱) Yarrowite
銅藍 Covellite
方鉛鉱 Galena
閃亜鉛鉱 Spalerite
輝水鉛鉱 Molybdenite

クレドネル石 Crednerite

方解石 Calcite
霰石  Aragonite

重晶石 Baryte
石膏 Gypsum
ブロシャン銅鉱 Brochantite

カコクセン石 Cacoxenite

マンガンベルゼリウス石 Manganberzeliite
ブラント石 Brandtite
パラブラント石 Parabrandtite
サーキナイト(肉砒石) sarkinite
ビリヤエレン石(ヴィリヤエレン石) Villyaellenite
ガイガー石 Geigerite
マンガンヘルネス石(マンガン砒華) 
アルセニオプレーアイト(アーセニオプレーナイト) Arseniopleite 
ウォールキルデル石 Wallkilldellite
スターリングヒル石 Sterlinghillite
コニカルコ石 Conichalcite

アロフェン allophane
濁沸石 Laumontite
束沸石 Stilbite
オパール Opal (ノーブルオパール、玉滴石) 宝石学会誌 16(3-4), 60, 1992"福島県御斎所鉱山産の遊色効果をもつオパールの球状粒子"

・二次的に生成したマンガン鉱物
 酸素濃度の高い地表付近で形成されるため、マンガンの酸化数は高く、Mn4+を主体とする。
軟マンガン鉱 pyrolusite
轟石 Todorokite
クリプトメレーン cryptomelane
横須賀石(エヌスタ石) Nsutite

・マンガン以外の二次鉱物
自然銅 Native Copper
赤銅鉱 Cuprite
孔雀石 Malachite
藍銅鉱 Azurite
珪孔雀石 chrysocolla

☆Mn2+とMn3+の関係 -本当に後退変成作用なのか?
 Mn2+がMn3+に酸化するには、Fe2+がFe3+に酸化されるよりも著しい酸化環境を必要とする。よって、溶液中においても鉱物の形成される環境中においてもMn2+とFe3+は共存できる。また、Mn3+が存在するような環境であれば、鉄は例外なくFe3+となっているはずであり、これはどのマンガン鉱物でも成立している。
 海底マンガン団塊として堆積した際は、ほとんどがMn4+ですべて同じであるのに対し、上記のようなMnの酸化数の変化がどのようにして行われたかは、変成岩岩石学的に興味深い。可能性は2つ考えられる。
○ Mn4+が高い変成作用により一度ほとんどすべてのMnがMn2+まで還元され、そこから温度圧力が低下していく際の後退変成作用によって酸化が進行した。
○ 変成作用にムラがあり、Mn4+がMn2+まで還元された場所と、Mn3+程度までしか還元されなかった場所があり、後退変成作用による酸化数の変化はほとんどなかった。
 変成マンガン鉱床の外縁部が酸化的になっている様子が見られれば前者の方が正しく、逆に中心部に酸化的なものがあり外縁部に還元的なものがあれば後者が正しいと直感的に考えられる。もっとも、地表での風化作用や地層構造の変化もあるため、議論はそう単純なものではないだろう。
 冒頭で述べたように、阿武隈帯の阿武隈変成岩は広域変成作用と熱変成作用の両方を受けており、従ってそこに含まれるマンガン鉱床である御斎所鉱山も同様の編成過程をたどったものと考えられる。このような地質環境を経てきた中で、御斎所鉱山で産する多様な鉱物がどのようなプロセスで形成されたものであるかは非常に興味深い。

◆フィールドで採集された鉱物

・バラ輝石Rhodonite テフロ石(マンガン橄欖石)Tephroite アレガニー石alleghanyite
福島県いわき市御斎所鉱山の鉱物・岩石と地質、地球科学/鉱物採集産地情報バラ輝石テフロ石アレガニー石

福島県いわき市御斎所鉱山の鉱物・岩石と地質、地球科学/鉱物採集産地情報バラ輝石テフロ石アレガニー石
御斎所鉱山の鉱山で採集できるズリのうち、最も一般的なタイプのもの。
バラ輝石はやや結晶度が高く美しいピンク色で、テフロ石は灰色をおびたようなくすんだ緑色である。
褐色部分はアレガニー石であるが、アレガニ-石とバラ輝石は直接接触して共存することはなく、必ず間にテフロ石などの他の鉱物が存在する。この標本では、アレガニー石の中に、テフロ石が”反応縁”のように取り囲んだバラ輝石がレンズの連なった脈のように入っている様子が見られる。

・バラ輝石中の赤鉄鉱 Hematite in Rhodonite 
福島県いわき市御斎所鉱山の鉱物・岩石と地質、地球科学/鉱物採集産地情報バラ輝石赤鉄鉱
バラ輝石のピンク色の塊の中に、青銀色の赤鉄鉱が脈状に入ったものがよく見られる。

・含マンガンエジリンMangano aegirine マンガノカミントン閃石(チロディ閃石) Manganocummingtonite(Tirodite)

福島県いわき市御斎所鉱山の鉱物・岩石と地質、地球科学/鉱物採集産地情報エジリンカミントン閃石チロディ閃石
濃い茶色の部分が含マンガンエジリン、黄土色の細い繊維状の部分がマンガノカミントン閃石(チロディ閃石)。
含マンガンエジリンは、濃い茶色のアルセニオプレーアイトなどのヒ酸塩鉱物と間違えられることもやや多いが、アルセニオプレーアイトはもっと色が濃いようである。

・南部石 Nambuite

福島県いわき市御斎所鉱山の鉱物・岩石と地質、地球科学/鉱物採集産地情報南部石マンガンヒ酸塩鉱物
割ったばかりのマンガン鉱石の大塊に含まれる南部石の脈。 
少量の緑色の皮膜は、二次的に生成した孔雀石である。

福島県いわき市御斎所鉱山の鉱物・岩石と地質、地球科学/鉱物採集産地情報南部石マンガンヒ酸塩鉱物
南部石&孔雀石部分のアップ
この後、さらに小割りにしていくと、この脈から枝分かれした南部石脈がいくつも入っていたことが明らかになる。


福島県いわき市御斎所鉱山の鉱物・岩石と地質、地球科学/鉱物採集産地情報南部石マンガンヒ酸塩鉱物
上の写真の大塊を割って現れた南部石。枝分かれした脈のものである。
目の覚めるような、鮮やかで美しい朱色のへき開片である。

福島県いわき市御斎所鉱山の鉱物・岩石と地質、地球科学/鉱物採集産地情報南部石マンガンヒ酸塩鉱物
南部石部分のアップ。

・ラングバン石 Langbanite

福島県いわき市御斎所鉱山の鉱物・岩石と地質、地球科学/鉱物採集産地情報ロングバン石Langbanite
主にブラウン鉱、バラ輝石からなり、脈上にエジリンが見られるマンガン鉱石に右端に、黒色板状で強い金属光沢を持つラングバン石が見られる。
黒色板状というよりも「銀黒色花弁状」とでも言いたいような、手に取ると独特の存在感のある魅力的な鉱物である。

福島県いわき市御斎所鉱山の鉱物・岩石と地質、地球科学/鉱物採集産地情報ロングバン石Langbanite
光の当て方を変えて撮った写真。右端で明るく輝いているのがラングバン石。

福島県いわき市御斎所鉱山の鉱物・岩石と地質、地球科学/鉱物採集産地情報ロングバン石Langbanite
バラ輝石中のラングバン石。上のラングバン石と同じ塊から産したもの。
赤色の矢印の先の黒色板状の結晶がラングバン石である。バラ輝石とブラウン鉱を主体とし脈状のエジリンが入っている鉱石である。

・自然銅 Native copper

福島県いわき市御斎所鉱山の鉱物・岩石と地質、地球科学/鉱物採集産地情報ロングバン石Langbaniteに伴う自然銅Copper 福島県いわき市御斎所鉱山の鉱物・岩石と地質、地球科学/鉱物採集産地情報ロングバン石Langbaniteに伴う自然銅Copper
上のラングバン石2つの標本と同じ塊から出たもの。
ごく普通のマンガン鉱石中に赤銅色金属光沢の皮膜状で産する。
銅の硫化鉱物の2次富鉱化作用によって還元されて出来たものと考えられる。


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