08 鉱物産地ができるまで

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20年近く前から、鉱物趣味の人口が広がっているという話があちらこちらで出ているようだが、 最近はSNSの進歩もあってとにかくたくさんの「鉱物採集初心者」を目にするようになっている。 「実際に自分で山に行って鉱物採集をしてみたい!!」という言葉を数限りなくいろいろなところで耳にし目にする。

現在のところ、基本的で初歩的な鉱物採集をするための産地情報というのは、かなり文献が充実している。 自分も鉱物産地情報が載っている文献のリストを作ったことがある(鉱物産地一覧1鉱物産地一覧2)。 古い鉱物産地では、もはや絶産したものや立入禁止のものも多いが、 2010年あたりから松原聡先生をはじめとした記載鉱物学の研究者による多くの書籍が出回っている。 初心者にはこれらの情報でも十分に楽しめるだろう。

一方、世の中にはハイアマチュアなどと呼ばれるような人達がいる。 鉱物コレクション歴が30年を越え、毎週末のように鉱物採集へ出かけているような、ものすごくアクティブな人たちである。 彼らは現在になっても国内で新産地を次々と開拓し、素晴らしい国産鉱物標本を見出している。 そういった新産地は、アテも無く山をふらついていれば見つかるようなものでは無い。 情報源として、鉱床学などの記載を行っている学術論文を見たり、 地質図から算出する鉱物を予測して産地を探すということをして見たり、といったことはもちろんのことである。 さらに、戦前〜高度経済成長期の日本国内の鉱山が現役だった時代にまとめられた記載誌のような文献、 あるいは地元の役場に赴いて行政資料を閲覧したり、歴史記録に残る鉱山の情報から明治・江戸時代以前の 鉱山跡の位置を特定したりなどと、とても広い範囲から情報をコンパイルすることで鉱物産地を見出している。 ほとんどの場合、そういった資料の情報は完璧な鉱物産地の位置を指し示していない。 資料をいくつも比べて、それらの類推をもとに、山の谷沿い尾根沿い、歩きまわり掘りまわりして、 時には何十回も同じ山に通って通い詰めて、 ようやくのこと鉱物産地を見つけるのである。 もちろん、いくら努力しても結局大したものは見つからず仕舞いということだって沢山ある。

ミネラルショーなどに出品される国産標本のうち、歴史的な古いコレクションの鉱物標本が放出されたようなものは別としても、 多くの国産鉱物標本はこうしてアマチュアの努力によって見出されたもののうち、その一部を出品し広く初心者にも供給されているのである。

鉱物産地情報が金銭にも標本そのものにも勝る価値を持つことがときどきある。 これは産地を広く知られて荒らされてしまうのを恐れていることももちろんあるものの、 こうした涙ぐましいまでの努力(もちろん当人たちは趣味で楽しんでいるのだが)による結果としての鉱物産地情報なので、 これから鉱物採集にどっぷりと使っていきたいと思っている初心者の方々には、ぜひともこの辺りの事情をご理解いただければと思う。

とはいえ、自分で探求して鉱物産地を見つけることは誰にでもできる。 ただ単に人と同じような市場に出回っている鉱物標本を集めるよりも、 自ら文献を漁り、山を駆け巡って新しい鉱物山地を開拓しようという方向に進むのも趣味として楽しいだろう。 鉱物コレクションのモノとしてはすぐには良い物は集まらないだろうが、 決して素人には難しすぎて手が出ない趣味ではなく、努力すればいつか大きな運が巡ってくる可能性は低くないものである。 国内の鉱物産地はもはや徹底的に歩き回られていると言っても過言ではない状況なので、 むしろ意外な着眼点で探して意外なところから良品が出たり、時には新鉱物の発見につながることだってある。 2010年台に入って以降の発見である新鉱物・千葉石や大阪石などはそういった経緯で見つかっているようなものである。 ぜひとも人とは違うことにトライしてみよう。

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