高知県高知市円行寺の黒瀬川帯蛇紋岩メランジュ

Serpentinite melange in the Kurosegawa belt, Engyo-ji, Kochi Pref. Shikoku Is.

2011年9月17日
高知県高知市円行寺の黒瀬川帯観察と蛇紋岩メランジュ中の鉱物採集_Kurosegawa belt serpentinite melange Shikoku

黒瀬川帯は、西南日本の九州から四国、紀伊半島まで東西に約km(一部は関東山地まで)にわたって露出する蛇紋岩メランジュ帯です。 蛇紋岩メランジュとは、様々な種類の火成岩、変成岩、堆積岩が数センチから数十kmまでのブロックで蛇紋岩に取り込まれてメランジュを成している地質体のことです。 現在のマリアナ沖の海溝では、形成途上の若いものが見られ、おそらく沈み込むプレートが地殻を削剥してマントルへ持ち去る構造侵食という地質現象に関連して形成されたと考えられています。
黒瀬川帯の両側にはすぐ秩父帯のジュラ紀付加体が露出しています。もともとの黒瀬川帯は秩父帯付加体中で水平に近いなだらかな傾斜を持つ薄い板状に挟まれた地質体でしたが、現在ではその一部がそれらジュラ紀付加体の上にクリッペとして薄く乗っている状態で残されたものです。
黒瀬川帯の蛇紋岩メランジュは、日本列島の地質を考える上で非常に興味深いばかりでなく、変斑レイ岩の中からストロンチウムを含む稀産鉱物や新鉱物を産しています。 有名な鉱物産地が四国の黒瀬川帯沿いに幾つか分布しています。円行寺はそのうちの代表的な1つです。

円行寺は高知市北側の山間にある地域で、黒瀬川帯の蛇紋岩メランジュがよく露出しています。 蛇紋岩は工業的に利用価値があり、田中オリビンや東洋電化などのいくつかの採石場が稼働しています。(※田中オリビンは稼働停止、現在は産業廃棄物処分場となっています。)

今回、旅行を兼ねて四国へ行きましたが、あいにくの大型台風直撃で、あまり十分な採集はできませんでした。円行寺は午前中の雨の止んだスキにササッと見学してきた、といった感じですが、とりあえず、いくつか露頭や採石場の様子を見ることが出来ました。採集の成果は大したものはなく、蛇紋岩に付いた霰石の自形結晶のほか、ヒスイ輝石かもしれないと思って持ち帰った転石がありましたが、薄片を作ってみてみたところ柘榴石と灰廉石の塊、すなわちロディン岩でがっかりでした(笑)

田中オリビンを後にして、もう1つの大きな採石場である東洋電化工業の採石場の方へ向かいました。

高知県高知市円行寺の黒瀬川帯観察と蛇紋岩メランジュ中の鉱物採集_東洋電化工業採石場_Kurosegawa belt serpentinite melange Shikoku 高知県高知市円行寺の黒瀬川帯観察と蛇紋岩メランジュ中の鉱物採集_東洋電化工業採石場
↑道を間違えてグルグル歩き回っていたら裏手に出てしまうなどw
東洋電化工業の採石場は現役で採石しており、とうぜん立入禁止であるが、ここのネットから覗くと採石場の中を一望できるので記念に撮影。

さらに、この場所近くの前の道路脇にヒスイ輝石と思われた転石がいくつかあり、持ち帰った。それこそがロディン岩rodingiteであったのである…

高知県高知市円行寺の黒瀬川帯蛇紋岩メランジュ中のロディン岩_ヒスイ輝石ではありませんでした_Kurosegawa belt serpentinite melange Shikoku
↑採集したロディン岩の標本。手のひらの上で転がすと重みがありヒスイ輝石のような雰囲気があったが、薄片をつくってみた所かすりもしないロディン岩で残念でした。 しかし、ロディン岩はそれはそれで興味深いものです。以下にロディン岩の薄片の画像を載せます。

高知県高知市円行寺の黒瀬川帯観察と蛇紋岩メランジュ中の鉱物採集_ロディン岩薄片_Kurosegawa belt serpentinite melange Shikoku 高知県高知市円行寺の黒瀬川帯観察と蛇紋岩メランジュ中の鉱物採集_ロディン岩薄片_Kurosegawa belt serpentinite melange Shikoku
高知県高知市円行寺の黒瀬川帯観察と蛇紋岩メランジュ中の鉱物採集_ロディン岩薄片_Kurosegawa belt serpentinite melange Shikoku 高知県高知市円行寺の黒瀬川帯観察と蛇紋岩メランジュ中の鉱物採集_ロディン岩薄片_Kurosegawa belt serpentinite melange Shikoku
↑ここのロディン岩はほとんどが斜灰れん石とざくろ石からなります。右側の直交ニコルで明るいオレンジ色などの干渉色を示すのが斜灰廉石、真っ黒になっているのが等軸晶系の柘榴石です。 灰廉石は標本ではほとんど灰色一色で、柘榴石は茶色に見えます。ロディン岩はCaに富んだ岩石なので、肉眼的な色合いなどもあわせて見ておそらくこの柘榴石は灰ばん柘榴石でしょう。

高知県高知市円行寺の黒瀬川帯観察と蛇紋岩メランジュ中の鉱物採集_東洋電化工業採石場 高知県高知市円行寺の黒瀬川帯観察と蛇紋岩メランジュ中の鉱物採集_東洋電化工業採石場
↑東洋電化工業採石場の入口の様子
入口の脇の小さな駐車場に蛇紋岩の露頭があった。様子としては田中オリビンの脇と変わらないが、ここでは蛇紋岩表面に二次的に生成した霰石Aragoniteの結晶が採集できた。

廃棄物処理場や宅地造成、さらに道路整備などが進んでおり、蛇紋岩の露頭は以前ほど見られなくなっているのかもしれませんが、円行寺エリアは今でも黒瀬川帯の蛇紋岩メランジュの露頭観察には良い場所の1つであるということができるでしょう。

planetscope 都道府県別 日本鉱物産地情報の一覧ページ

planetscope フィールドノートTOP

planetscope TOP