4 岩石サンプルからのジルコン分離と同位体分析の実際
4-1-1. 岩石サンプルのクラッシュと調粒
まずは岩石サンプルをサラサラの砂のレベル、ときには砂というか粉というくらいのパフパフになるまで砕きます。
最初の方は普通にハンマーで叩き潰しこれで十分間に合うこともありますが、さらにサラサラの砂にするためには振動ミルというこの小汚い洗濯機みたいな機械を使います。
タングステン合金かなにか出できたやたら重い容器に1〜3cm程度の小石レベルに砕いた岩石サンプルを投入し、蓋をして、機械にセットします。
するとこの機械がゴウンゴウンガタガタ音を立てて振動するので、中で金属と小石がガツガツぶつかった結果、小石だったのが粉になります。
これをフルイで目的の粒サイズに揃えます。フルイを通らないものはまた容器に入れてやりなおし、これをひたすら繰り返します。
フルイの目のサイズは岩石の種類によって変えます。花崗岩などの場合は大粒のジルコンが沢山入っているので粗い目のフルイで十分ですが、
砂岩の、それも玄武岩質なものだったりするととても細かいジルコンしか入っていないためとても細かいフルイを使ったりします。
どれくらいの目を使うのが効率的かは研究上の重要情報なので(?)、ここでは秘密です。
まぁ普通に岩石種を考えて薄片観察なり何なりすれば自ずと答えは出ます、と言いたいところですが、これが以外とヘンテコなので出たり出なかったり、つらいものがあります。
4-1-2. 椀掛け(パンニング)による比重選別第1段
前段階で粉になったら、それを今度は椀掛けと呼ばれる砂金採りと同じ手法で比重選別します。
椀掛けで重鉱物を濃集させる原理や方法は砂金採りと全く同じなので、他のサイトに譲ります。
使うツールは木地の古典的な椀や、アメリカ流のパンニング皿などがありますが、実は隠れた最強ツールがお玉です。
いやこれはほんとうに、最強ですよ。パンニング皿とかよりはるかに簡単なのに収率がとても良いです。
ちなみに、このジルコン部屋にはなんとガス給湯器が付いているので、冬でも難なく作業ができます。
お湯なしで何時間も数kgの岩石粉末を椀掛けなどというシベリア強制労働のようなことやってたら、研究が辛くなってしまいますからね、
とてもありがたいことです。
椀掛けが終わったサンプルは最低でも丸1日程度恒温器に入れて、次の磁選のためによく乾燥させます。
4-1-3. 磁選
椀掛けで重鉱物を濃集させたら、その中に含まれる磁性鉱物を除去します。ジルコンは磁性が無いので残ります。 ネオマグ社http://www.neomag.jp/の超強力磁石で吸い付けます。 超強力なので、磁鉄鉱Magnetiteやチタン鉄鉱Ilmeniteなどのような普通の砂鉄を構成する鉱物はもちろん、 その他程度の違いはあれども鉄を含む柘榴石・輝石・角閃石・雲母・緑泥石などの有色鉱物各種もことごとく吸い付けます。 花崗岩質なものならば、有色鉱物はほとんどここで絶滅してくれるのですが、玄武岩質なものだと、微妙に鉄を含む輝石類が グダグダと微妙な力で吸い付いたり吸い付かなかったりして面倒くさくなります。やっててもキリがないので、そういう時はまぁ適当なところでやめます。
4-1-4.重液選別
さらにジルコンのみを濃集させるために3g/ccに近い密度を持つ溶液である重液を用いた選別を行います。 この作業により、大半の造岩鉱物は浮き上がってしまい、ジルコンやその他比重の大きい少量の有色鉱物や副成分鉱物のみが残ります。 重液にはいくつかの種類がありますが、最近では環境への配慮から無害なポリタングステン酸ナトリウムがよく用いられています。 おかげで実験室でお菓子つまんで飲み物飲みながら作業してても何も問題ないので助かります。 以前は重液というとブロモホルムなどの有害な有機化合物も用いてたそうです。
試験管に試料を入れ、そこにSPT重液を注ぎ込みます。重液は密度が高いぶん年生もものすごく高くて水飴みたいなので、
このままでは浮くものも浮かないので、遠心分離器や超音波洗浄器などを用いて刺激を与えてジルコン以外の余計な鉱物を浮き上がらせます。
この後、上から純水を加えてそっとかき混ぜて、浮き上がっている余分な鉱物はスポイトで吸い取って除去します。
そして残った重鉱物をシャーレに移して乾燥させます。はじめ5kgほどあったサンプルがこの段階で薬さじ数杯程度似にまで減ります。
ちなみに、SPT重液は使った後にろ過と加熱濃集を繰り返して極力リサイクルしています。
4-1-5. 顕微鏡によるピック
シャーレにいれて乾いたサンプルからジルコンをピックします。0.1mmを下回るようなものすごく小さな粒です。
小学校の家庭科の授業で使ったようなまち針の先端をちょっと手汗などで湿らせて、双眼実体顕微鏡(人によっては偏光顕微鏡)で覗きながら
チョイっと針の先にくっつけて1粒ずつジルコンを取り出していきます。
取り出したジルコンは両面テープを貼ったスライドガラスの上にくっつけて行きます。
4-1-6. 樹脂埋め
スライドガラスの上の両面テープにくっついたジルコン、これを樹脂に埋めます。使う樹脂は色々ですが、ここのところはアクリル樹脂を使ってるみたいです。
透明なプラスチックチューブを切った輪っかをかぶせ、その中に流し込み、あとは2日くらい乾燥して固まるのを待ちます。
固まったら、チューブから取り出し、表面を研磨していきます。ジルコンのなるべく真ん中の断面を出して、分析する面を作ります。
磨くのにはダイヤモンドペーストかラッピングフィルムを使います。
丁度真ん中まで磨きたいところですが、あんまり調子乗って磨き過ぎるとジルコンが樹脂から落ちてしまいますので半分よりちょっと多くが埋まった状態を作ります。
しかし調子に乗ると磨きすぎてジルコンが落ちる、と言うか研磨して一気に摺り飛ばすなどということもあります。岩石薄片の仕上げと同じですな。
研磨した後の樹脂はこんなかんじになります。この小さな中に200粒程度のジルコンが入っています。かわいいですね。
4-1-7. カソードルミネッセンスCL観察
樹脂が固まったらカソードルミネッセンスによりオシラトリー累帯を観察します。これにより、変成岩起源ではなく火成起源であるものを選ぶことができます。 ということになってるのですが、実際には古い年代のジルコンだとオシラトリー累帯がどれも曖昧だったり、明らかに累帯あるのにディスコーディアに乗ってたりしてつらい時もあります。 が、最近はCL観察ナシのものだと研究として論外扱いなのでちゃんとやります。
カソードルミネッセンスは基本的に走査型電子顕微鏡SEMに付随する装置なので、まずは樹脂に炭素蒸着(カーボンコーティング)をします。
真空中で炭素棒の間で放電を起こして炭素蒸気を飛ばし散らかすことで、サンプルの表面に薄い炭素の膜を作ります。
もうだいぶポンコツになってる蒸着の機械、そろそろ買い替えで新しいのが来るらしい…?
こうして蒸着したものをSEMにセットし、CL画像を撮影していきます。この画像を参考に、ICP-MSでジルコンのどこのスポットを年代測定するのか決めていきます。
この撮影がまた積算して画像にするために時間がかかるんですよねえ…
CL撮影が終わったら樹脂の表面の炭素蒸着は先ほどの研磨と同じようにして落としてしまいます。ちょっと磨けばすぐに落ちます。
・そしていよいよLA-ICP-MSへ!!
長い道のりでしたね。ここまで準備が揃ったらいよいよLA-ICP-MSへ!!
分析スポットに標準を合わせて、レーザー撃って、質量分析器をONにする、1セット1分半程度の作業を昼夜問わず三日三晩繰り返すことで、
ジルコンの年代データを得るとともに精神を鍛えあげることができます。