地球科学系の学科での進路と就職

地球科学系の大学で身につくこと。野外実習。アメリカ巡検。地球科学系で学べることと就職について

「大学の地球科学系の学科に行きたいけど、就職が心配…」

そんな高校生のために、現役大学院生が地球科学系の学科の就活の現状や、高校生のうちからやっておくべきこと、見ておくべきこと、考えておくべきこと、勉強するべきことなどについてお教えします。地球惑星科学、地球科学科、地質科学科、地学科、地球環境科学科、地球惑星物理学科などを進路に考えている人の参考になれば幸いです。

◯ 各大学の公式サイトを見よう

まずはどんな大学で地球科学が学べるかを把握しましょう。 日本地球惑星科学連合JpGUのサイトに地球惑星科学が学べる大学の一覧が載っています。
 リンク→http://www.jpgu.org/index/students/learninggeoscience1.html
このリンク集はちょっと幅が広めで集めてあり、工学系などであっても少しでも地球惑星科学に関連していれば一覧に含めてあるようです。 大学の学部と大学院も分けて載せてあって、~~学科というのが学部、~~専攻というのが大学院です。

主要な学科には、卒業後の進路が載っています。普通は学部卒、修士卒、博士卒というように分けて、過去数年分が載っています。 それらを参考に、地球科学系の学科出身者がどんな職業に就いているのかを見てみましょう。

◯ どんな職業に就くのが多いだろうか

自分の(大学受験的な意味での)学力に照らし合わせて、目指すべきいくつか主要な大学の地球科学系学科のサイトを見れば、だいたいの就職先がわかるでしょう。 パターンとしては、たぶん挙げるようなものが多いでしょう。

・研究員、学芸員(博士進学)
・鉱山会社、鉱業関連
・地質コンサルタント、測量、環境調査、気象関係など
・教員(高校、中学校、小学校)あるいは予備校講師
・公務員 (ナントカ省みたいな国家公務員、あるいは都道府県市町村の地方公務員)
・IT関連企業
・金融、経営コンサルタント、商社など
・その他一般企業

◯ 何を学ぶべきだろうか

高校の間、あるいは学部生で、地球科学系の学科にいて就職できるようになるためには何を学ぶべきだろうか。私の思うところを書いておきます。 ここから先は人によって異論があると思うので、あくまで参考意見といった程度に。私は就活したわけではないので、周りを見ていて、こんな感じかな、と思うところを羅列してます。

・研究員、学芸員(博士進学)

いわゆる地球惑星科学ガチ勢です。大学院博士課程に進学して、ポスドクや各種研究員などになっていくルートです。博物館の学芸員やジオパークの研究員などもこの分類に入ります。 研究活動に耐えるだけの地球惑星科学への興味関心の高さがまず求められます。 周りの友人が就職して給料をもらい結婚したりしていく中、大学院に最低でも5年も居残って研究を続けることは普通の人にはなかなかしんどいです。

精神的な話は置いといて、もしこのルートを目指すなら高校の数学・物理・化学くらいはちゃんとできる理系学生になっておいた方が良いです。あと、高校英語くらいはできないと論外になります。 大学入ってから必要になり次第勉強するというのは、時間的に極めてしんどいです。高校地学は受験で使っても良いですが、趣味の範囲で学ぶのでも十分かと思います。

大学院で博士進学して研究する話はこれくらいで、たぶん他のサイトに色々と書いてあると思うのでググってください。

・鉱山会社、鉱業関連、石油天然ガス関連

ジオ要素の最も高い職種の1つでしょう。 日本の鉱山会社としては三井鉱山、住友金属、JX、JAPEX、INPEX(帝石)、官公庁ですがJOGMECなどが挙げられます。 会社によって、また同じ会社でも職種によって、求められる能力は変わります。 金属鉱山なら鉱床学はもちろんその他の物質学・鉱物学・岩石学・火山学など、石油なら石油地質学はもちろんのこと構造地質学や堆積学が有利な模様。 リモートセンシングや物理探査などはいずれの業種でも有利なようです。

・地質調査会社、地質コンサルタント、測量、気象関係、環境調査など

地球科学系で学ぶことが直結する業種です。 穴を掘って土地の地質を調べるボーリング調査や、実際に野外を歩いて地質踏査をする会社、土地の測量や地図の制作をする会社、あるいは民間の気象予報や気象情報のサービスをする会社、環境を調べる会社などがあります。 有名なところの会社名で言うと、応用地質、ダイヤコンサル、基礎地盤、アジア航測(赤色立体地図で有名)、北海道地図、国際航業、ウェザーニューズ、日本気象などが挙がります。
地質調査や気象などの知識が直結するのは簡単にお分かりいただけるでしょう。 GISなどの情報系の技術を持っていれば測量には有利になるでしょう。地球化学や現世の環境を研究していれば環境調査系への就職ルートも明るくなるでしょう。

・教員(高校、中学校、小学校)あるいは予備校講師

地球科学系の学科の卒業生では、教員になる人も多いです。
地球科学系の学科は、大きく分けて理学部にあるものと、教育学部にあるものの2つがあります。 前者の場合は教職課程の授業を履修することで高校や中学の先生になることもできるようになります。 教育学部の人は小中高のいずれの教員にもなりえます。小学校の教員は児童心理学などを学ばなければならないので、教育学部卒でないとなれませないようです。

理学部で教職課程を取るのはなかなか大変です。私は片手間で教員免許もとろうかなーとぼんやり高校の頃考えてましたが、学部1年生のときのガイダンスを受けて早速諦めました。

教員免許がない場合、予備校講師や塾講師になる人も多いです。

・公務員 (ナントカ省みたいな国家公務員、あるいは都道府県市町村の地方公務員)

地球科学系出身で公務員になる人もけっこう多いです。 公務員というと「お役所仕事」というお硬いステレオタイプがありますが、今どきそんな一昔前のイメージとは異なります。 国家公務員と地方公務員の違いとかそういうところは公務員になりたい人向けの就職情報をググってください。
僕の知っているところで言うと、国家公務員は地球科学のような理学部の学生で思考力や発想力に優れた人材は積極的に採用していきたい、と思っているっぽい、というのが現役の人たちと接触しての感想です。

地球科学系に関係するところで言うと、ジオパークをやっている地方自治体の公務員というのがあります。 ジオパークの専門家として採用される場合(専門員採用)は博士課程まで出て(修士卒の場合もあるけど)研究者としての能力があることが求められますが、そうではなく普通の公務員として就職するとどうなのでしょうか。 公務員採用で就職するとは異動が必須です。部署が何度も変わることになり、必ずしもジオパークの担当になるとは限りませんし、なったとしても変更されることも普通です。 水道やってた人が公民館担当したり、議会の人がジオパークの担当をやることもあり得ます。異動に耐えられて様々な仕事をこなせる能力が必要になります。

・IT関連企業

地球科学系でもシミュレーションやデータ解析などの方面に進むとプログラミング能力が養われてIT系に就職、ということもあります。 プログラミングや情報科学の専門知識が無い場合、SIなどに進む人もいます。

・金融、経営コンサルタント、商社など

こちらも割といます。理由は様々ですが、地球科学系で研究活動をしている中で、自らの意志と選択によっては、思考力はもちろん、プレゼン能力や海外経験が伸ばされるためであろうかと思います。 博士課程を中退して外資系投資会社に引き抜かれていった先輩とかもいました。

・その他一般企業

実はここも結構多かったりします。要は文系の大学生などと同じように、学部名と関係なく普通に就活するパターンです。

・まとめると…

地球科学系のことを就職無い学科のように揶揄されること多いですが、私の考えとしては「地球科学しかやってなかったら就職は難しいけど、地球科学をやってることはとても多くの職業に対して有利になりうる」ということです。 薬学部などのように資格直結の大学ではない、本当に学問をやるのが地球科学系の学科です。 大学で地球科学系に進めば、高校地学の段階からは、格段にレベルも視野も広がります。 せっかく関連分野の多い地球科学を学ぶのなら、高校地学に固執せずに自然科学全体、あるいは情報技術や文系科目、語学なども貪欲に知識を吸収していくことが重要でしょう。

綺麗にお話をまとめても困るだろうから、具体的に高校の科目で言っておくと、
・英語は絶対できた方が良い
・数学・物理・化学は切らずに最低限教科書に乗ってることやセンター試験のレベルはわかるようになっておいたほうが良い
・数学ⅢC(そのうち科目名が変わるかもしれない)は必ずやっておいた方が良い(やらずに入れてしまう大学では後からどうせ必ずやる)
・むしろ高校地学や高校生物は後からでも独学でもなんとかなるから受験科目に選ぶ必要は無い
ということになろうかと思います。

蛇足で言っておくと、パソコンの使い方みたいな情報技術は絶対に身につけておいてください。 今どきパソコンでWordでレポートが書けないような人は地球科学系の学科でやっていけませんし、就職も絶望します。

◯ むしろ本当に地球科学系の大学に行く必要があるのか

今さら何を言うんですか、って感じかもしれませんが、あなたが本当に地球科学が好きで地球科学を学びたい、でも地球科学の研究者になって人生を地球科学に捧げたいというわけではない、という場合。 実は地球科学系の学科に必ずしも所属しなくても良いかもしれません。好きなことを専門や仕事にすると好きでなくなってしまう、というのはどこでもよくあることです。

・大学は割と自由に授業を取れる

大学は高校とは違って授業は自分で選択するものです。学科ごとにカリキュラムは設定されているものの、他の学科の授業に出ても問題ありません。
単位申請をして授業に出れば、その授業を履修したことが成績表に記録されます。 担当の先生に相談すれば、講義であれば単位申請をせずに自分の勉強のためだけに出ることも可能な場合が多いです(実験や巡検は安全管理の都合上すこし難しいですが…)。
だいたい学部3年生くらいから授業を取らないコマという暇な時間が発生してきますので、そこで地球科学系の授業に顔を出すこともできます。
巡検のような短期間に密集して行う授業では夏休み期間や春休み期間、あるいは週末や連休に行うことが多いので、それも履修可能なパターンが多いです。

・大学院からやり直したりもできる

大学や大学院というのは高校生が思っている以上にとても自由な場所です。 大学入学式や大学院入学式で同級生を見渡すと、浪人生などがいるため自分の年齢±2歳くらいはあたりまえ、さらによく見るとオジサン、オバサンがいたりします。それが普通です。

地球科学系ではない学科で大学を卒業してそのまま就職、お金を貯めて大学院に来る、というパターンは非常に多いです。 女性であれば若いうちに結婚して子育ても落ち着いて、それから大学院を出て研究者になる、というパターンもあります。 本格的に研究をして地球科学を真の意味で学ぶとなると、学部の授業などお遊びでしかありません。上記の通り授業に潜ったり、あるいは教科書を買って独学したりもできます。 自分でデータを出して研究してはじめて地球科学を学んだと言えるようになります。 研究は(ちゃんとやろうと思うと)しんどくてとてもつらい作業ではあるけれども、同時に地球科学を本当に面白いと思うならとてもやりがいのある作業です(と、少なくとも自分は思ってます)。

・個人で関わることもできる

とはいえ、しんどい研究をやらなければいけない理由は無く、それを選択しない自由もあります。 地球科学系の大学には入らずに普通に就職し、それでも興味のある専門書や論文を読んだり、博物館や学会の開催するイベントや講演に参加したり、学会に一般会員として参加したり、色々な方法で個人的に地球惑星科学に触れる手段はあります。 普段は化学系メーカーのサラリーマンのおじさんが、学会に一般会員として参加してきては専門家をドキッとするさせるような鋭い質問を投げかけたり、ということもまれにあったりします。 地球惑星科学を愛する普通の人が社会に増えてくれることも、学問の発展には重要なことです。

◯ まとめ

高校の段階で人生を決めるのは難しいですが、いろんなパターンで地球惑星科学に携わっていく手段があることを知って、一番自分の趣向に合った人生を選択できたらいいな、と思います。
質問などあったらTwitterとか、あるいはちゃんとしたメールとかフェイスブックとかでも受け付けます。 Twitterは原稿の締め切りや上手くいかない分析のせいで発狂してたりするかもしれませんが、遠慮なく質問してくださって結構です。ビール飲んだりして発狂が収まったら返信します。うっかり飲みすぎて記憶が飛んだりもするので、そういうときは2,3回連絡してみてください。

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