静岡県河津町浜(やんだ)の沸石

Zeolites from Hama 'Yanda', Kawazu City, Shizuoka Pref., Honshu Island

訪問日: 2010年3月 & 2016年3月
採集鉱物: モルデン沸石、ダキアルディ沸石、輝沸石、菱沸石、束沸石、セラドン石、方解石、玉髄

概要

"やんだ"と通称される静岡県河津町浜の菖蒲沢海岸(菖蒲浜)近辺の海岸では、モルデン沸石をはじめとする沸石類の鉱物採集ができます。
やんだの地層は、中新生中期~後期の白浜層群最下部をなす玄武岩溶岩流、水中自破砕溶岩、および二次的に崩落して堆積した火山角礫岩(玄武岩と安山岩を含む)から構成されています。 全体として熱水変質を被っており、沸石などの鉱物が溶岩および角礫岩のいたる所に生じています。

やんだは海岸での採集になるため、しっかりと干潮の時間を狙っていかないといいものが採れません。気象庁のページで確認し、採集に適した時間帯に干潮となる日を選んででかけましょう。 <.p>

フィールドの様子

初めてやんだで鉱物採集したのは大学受験終了直後の2010年でした。1泊2日で前日は縄地鉱山~菖蒲沢海岸で銀黒鉱石や自然金の採集をしておりました。 2回目は2011年3月、3回目は2016年3月でした。

↓やんだへ行くにはiZoo(旧アンディランド亀の博物館)のすぐ脇にある小道を下りていきます。しばらくすると排水路が見えます。 いくつかの鉱物採集のガイドブックは釣具屋の脇の道を行く方法を紹介していますが、どちらでも海岸にたどり着きます。
鉱物産地やんだへのルートiZoo(アンディランド)

↓やんだの海岸に降りてすぐの様子。
やんだのモルデン沸石

海岸に降りてすぐの海食台や露頭において、火山角礫岩中の玉ねぎ状風化や、溶岩流の中の柱状節理などが見られます。

↓玄武岩質溶岩の柱状節理。マグマが冷えて固まる際に、べナール対流によってできたとされる。上から見ると6角形のような形の柱になっている。2010年撮影なので、ガラケーの低画質な画像でスミマセン…
静岡県河津町やんだの柱状節理

↓たまねぎ状風化。ハンマーの右の岩が玉ねぎのように剥けそうな様子がわかります。
玉ねぎ状風化

たまねぎ状風化は玄武岩安山岩花崗岩アルコース質砂岩などの均質な岩石に良く見られる風化構造です。
こちらの鹿児島大学のHPに少し詳しく載ってます→http://www.sci.kagoshima-u.ac.jp/~oyo/weather_r.html#onion

↓採集のメインとなる露頭と海食台。左奥の黒色塊状に見える地層の部分が普通輝石灰長石を斑晶に含む玄武岩質溶岩で、右側のボコボコした地層が火山角礫岩です。
やんだのモルデン沸石

火山角礫岩の露頭の方はかなりえぐれていて危険です。いまにも角礫がポロッと転がり落ちてきそう。事前の安全確認やヘルメットの装着を怠らないように。極力、海食台での採集のほうが良いでしょう。どうせ石の質は同じですし割るのもラクです。
やんだのモルデン沸石

モルデン沸石は量としては少なくありません。小さなものや陶器のような緻密な塊のものならたくさんあります。 しかし、良質な毛状~針状のモルデン沸石となると、なかなか見つかりません。そういったタイプのモルデン沸石の結晶はとても細かく脆いため少しでも波や雨風を浴びると結晶の形が崩れたり、茶色く劣化してしまいます。

良いものを狙うには、露頭や大きな転石の表面に劣化したモルデン沸石がついている部分を割り取っていくと、モルデン沸石の晶洞を見つけることができます。
晶洞の中は、壁面が土状のセラドン石や輝沸石の細かい結晶に覆われている上に放射状のモルデン沸石が付いているタイプと、晶洞の中がモルデン沸石の結晶のみで覆われているものの2つのタイプがあります。

↓火山角礫岩および玄武岩質溶岩の中に白い網目状の脈が入っているのがわかる。これらが沸石類で、割り取って""脈を押していく""うちに空隙から自形結晶の沸石を採集できる。2016年撮影。
やんだのモルデン沸石

↓こちらはかつては美しいモルデン沸石の晶洞であっただろうもの。風雨にさらされてただの穴になっている。こういう場所を押していくと、新たな晶洞が見つかるかもしれない。画像幅50cm。2016年撮影。
やんだのモルデン沸石

↓2010年の際は、よくわからずになんとなく露頭の崖をハンマーで叩いたところ、長径が15センチほどもあるレンズ状の晶洞が開き、繊細な針状結晶のモルデン沸石単独で満たされていました。
やんだのモルデン沸石

インドのオーケン石を思い浮かべるくらいのフサフサの晶洞でした!!!
ただ、露頭の表面にへばりつくような形の晶洞で、きれいにそっくり採集することはできませんでした。仕方なくいくつかのパーツに小割することとなりました。

↓2016年の際は、赤色の風化した碧玉のようなものを伴う脈の中に生じたモルデン沸石が見つかりました。画像幅20cm。
やんだのモルデン沸石

このときはこの脈を押していくことでいくつかの美しい標本が採集できました。2010年との大きな違いとして、菱形でやや黄色みを帯びた無色透明の方解石の自形結晶がモルデン沸石の毛の中に埋もれていました。また、モルデン沸石の毛が2010年のものよりも"硬い"ように見え、毛と針の間のような見た目をしています。もちろん、実際には触ると崩れてしまうような脆いものであることに変わりはないのですが。

やんだの採集品

採集したフサフサのモルデン沸石をキレイに持ち帰るには、水や砂がかからないようにしなければいけません。
水がかかると濡れた髪の毛のように萎んでしまい見てくれの悪い標本になってしまいます。
砂は少し被るだけなら後から除去できますが、水洗いできないため、また細かい結晶の中に砂粒が入ってしまうと取れないため、なるべく砂はかからないようにするべきです。

100円ショップなどで売っている仕切りと蓋つきの整理用プラスチックケースやタッパーウェアが便利です。 プラスチックケースには出かける前にあらかじめ仕切りの中に綿を入れておきます。採れた標本を仕切りの1区画ごとにつめていくのですが、このとき、標本の下に綿を敷いておくのはもちろん、上からも軽く綿を乗せて、標本が動かないように固定すると良いです。ただし、あまりギュウギュウづめにしてしまうと標本がつぶれてしまうので、その辺は微妙に調節してください。モルデン沸石の結晶の上に綿のカスが付いてしまいますげ、この程度なら後から除去できました。タッパーのほうには梱包材に使うビニールの「プチプチ」を入れておき、それで標本を保護すると良いでしょう。必要に応じて結晶部分に綿を当てて保護してください。

↓タッパーウェアと整理用プラスチックケース
やんだでのモルデン沸石鉱物採集道具に便利なプラスチックケース

持ち帰った標本は、絶対に水洗いしてはいけません。母岩部分の砂は塗装用のハケか筆で軽く掃きます。結晶部分に付いた砂は少しならピンセットでつまんで除去するのが良いです。多めなら、東急ハンズなどで数百円で売っているシリンダー(注射器)を用いて風で吹き飛ばす手もあります。掃除した後の標本は蓋付きの小箱にいれて埃がかぶらないように保管しましょう。
やんだのモルデン沸石
↑収集した沸石を入れた標本棚の引き出し

やんだのモルデン沸石
↑上の標本棚の写真の右手前に入っていた標本のアップ写真。画像幅12cm。

やんだのモルデン沸石
↑上の標本をよりアップで撮ったもの

やんだのモルデン沸石
↑小型の標本ながら毛並みの良いもの。画像幅3cm
言い訳みたいですが、写真がもやっとしているのは決してピンボケではありません!(笑) 結晶が細かいためです!!!

やんだのモルデン沸石
↑標本棚の中の左手にあった標本 このような小さな晶洞は比較的簡単に採集できる。


やんだのモルデン沸石
↑上の標本の晶洞部分のアップ 画像幅2cm
晶洞の壁面がきらきらしているのは輝沸石によるもの。青緑色土状のセラドン石によりコーティングされている場合もありますが、どちらにしてもこのような小型標本を引き立ててくれます。ルーペで観察して楽しみましょう。

モルデン沸石の他の鉱物についても少し載せておきます。
やんだの方解石犬牙状結晶と輝沸石
↑輝沸石の晶洞。方解石の犬牙状結晶(手前の薄茶色のもの)が付いている。このような標本はとても簡単に採集できる。

やんだの青色玉髄
↑青色の玉髄 画像幅3cm 
これもあるところには集中して大量にある。青色の発色の仕組みはよくわからない。セラドン石が関係しているという話もあるが、青になるとは考えにくい。似たような青色の皮膜を埼玉県吉見の沸石産地でも見たことがある。この写真のように立派な仏頭状ではなくもう少しのっぺりしたものではあったが。

やんだのセラドン石と輝沸石
↑セラドン石の上に輝沸石の細かな結晶が付いているもの 画像幅3cm 
このようなものも簡単に採集できる。小型であり珍しいものでもないが、なかなか魅力的な標本だと思います。

なお、露頭は波による侵食や先人の採集(?)により、かなりえぐれた形になっていますので、露頭を叩くときは頭上によく注意してください!安全第一!!!
また、産地を含めて付近の海岸は海藻や貝類の漁場として漁業権により保護されいるようですので、そういったものは採集はやめましょう。

planetscope フィールドノートTOP

planetscope TOP