2013 ウェールズ地質調査
Wales Geological Survey
2013年7月26日~8月7日に東京工業大学丸山研のウェールズでの地質調査の様子です。
この前に、西側のアイルランドでの地質調査も行っていました。
調査地の概略
地質学発祥の国であるイギリス、そこでは基本的に正常堆積層と大陸衝突による地質構造発達史が中心となっていました。
実際、イギリスの地質図を見ると特に南部などでは大半が正常堆積層に覆われており、基盤岩の露出が極めて限られています。
ウェールズの西端にあるアングレーシー島やスリン半島に露出している基盤岩は極めて明瞭に付加体地質の性質を示していますが、
イギリスの地質学では長い間これを正しく評価することができていませんでした。
日本で発展した付加体地質学を、地質学発祥の地で実証していくことは極めて意義深いことです。
アングレーシー島やスリン半島には3つの低温高圧型変成帯があると予想されており、おおよそ西南日本と同じようになっていますが、
後の構造運動により、地質帯がそれぞれほぼ垂直に立っているため、見かけ上、大きさがとても小さくなっています。
現在進行形の沈み込み帯である西南日本では、付加体は和達ベニオフ面にほぼ平行に、水平に近い低角の傾きを持った地質帯の並びになっているので
見かけ上、それぞれの地質帯が大きく露出していますが、実態としては西南日本もアングレーシー島・スリン半島も同じような付加体であることがわかります。
・Anglesey Islandアングレーシー島
・Newherbar Gp.やCentral shear zoneなど、複数の低温高圧型変成帯の変成分帯を行うためのサンプル採集と上限・下限の断層の確認
・Parys Mt.の原岩となった堆積岩と、変質作用をもたらした流紋岩類の採集。
・Gwna Gp.の海洋底熱水変成作用などを議論するための緑色岩類サンプル採集
・その他、これまでの調査での不足分の採集とマッピングなど
・Llyn Peninsulaスリン半島
・ブライチのGwna Gp.付加体、不足分のサンプル採集やマッピングの完成など
・Windley pointの全球凍結時の深海性堆積物である黒色頁岩とその周りの地質構造
・その他、いくつかの海岸での海洋プレート層序など付加体地質に特有の構造の確認
調査日程
・7月26日
アイルランドの首都ダブリンからフェリーでウェールズの西端、ホーリーヘッドHolyheadへ。
約2時間の船旅でした。
コテージはこれまた可愛らしいものです。壁は結晶片岩、屋根はスレートという特産の石材のオンパレード!!
・7月27日
ウェールズでの調査初日。
スリン半島の先端にあるブライチBraichという場所でマッピングとサンプリング。
グウナ層群Gwna gp.の原生代末期~カンブリア紀付加体が見られます。
メインのサンプリングやマッピングは昨年までの調査で終えていたので、不足分を補って全体を確認する感じでした。
・7月28日
アングレーシー島の中で、道路脇や牧場の中などの小さな露頭で緑色岩類のサンプリング
薄片観察して変成分帯の研究をするための、小さなチップのサンプリングが主でした。
・7月29日
アングレーシー島の地元の博物館で学芸員としてはたらくマーガレットさんの案内で色々と見て回る。
Parys Mt. mineパリッシュマウンテン鉱山、付加した海洋島の石灰岩に含まれるストロマトライトの化石、メランジュの模式地などなど。
・7月30日
South stackとNew Harberという2つの地質体の境界を探して回る。
低温高圧型変成帯は、上限を正断層で、下限を逆断層で区切られた構造的貫入岩体であるが、
このような貫入はスラブ沈み込み角度の変化によって引き起こされ、一次的な上昇でありで、
さらに2次的なドーミングによって上昇することで地表付近まで露出すると考えられている。
このような二次的なドーム状隆起の上昇では、地質帯は高角な正断層によって区切られた「豆腐のさいの目切り」のような構造となる。
アングレーシー島では2次的な上昇によると思われる高角な正断層は容易に判別できるが、一次的なコンタクトは層に平衡に近い水平なものが多く、
なかなか判別がつかない。イギリスでは地向斜論のような考え方に基づいて、長い間整合にコンタクトしていると考えれられていたようだが、
この誤った「常識」を覆すこともこの日の目的であった。
海岸の別荘地、その真下にある露頭で2人の日本人の若造と1人のイギリス人のお爺さん、であれやこれや見て回る。
居住者は、何だこいつらって顔して笑ってましたw
その後は海水浴場を通りすぎて海岸沿いにサンプリングを続ける。
水着でワイワイしてるなか、これまた3人のアヤシゲなジオロジストが通りゆくw
とてもきれいな海岸と変成岩でした。
・7月31日
この日も前日と同じ境界探し。別のポイントを見て回った後、変成岩のサンプルも採集。
前日の美しいビーチとは打って変わって、道路脇の地味な露頭…しかも2つの地質体のコンタクト識別も難しい。
天気もあまり良くありませんでした。
・8月1日
北西部の花崗岩類を探しに行くが、これが全く無い…
どうやらクォーツァイトを見間違えたのだろうか、地質図には真っ赤に塗りつぶしてあるのに、見つかったのは小さな腐りかけの露頭の
脈状の花崗岩でした。なにかの根無しナップでしょうかね。とても岩体として貫入しているとは見えない感じでした。
・8月2日
アングレーシー島を脱出してスリン半島へ移動
Windley pointと丸山研で呼んでいる場所の黒色頁岩およびその構造地質の確認。
黒色頁岩は全球凍結による海底無酸素環境を反映していると考えられるもので、場所によっては叩くと硫黄臭がするような還元的なものもあります。
複数階建てのデュープレックス構造が見られ、海洋プレート層序が確認できることから付加体であることがわかります。
・8月3日
スリン半島の海岸線沿いに海洋プレート層序などの地質構造を確認して回る。
大雑把なマッピングは昨年までに完成しているので、ジルコン年代分析に必要な砂岩や凝灰岩層を採集したり、露頭の写真をとったりという確認作業。
海水浴場やキャンピングサイトがいくつかあり、観光客で賑わう海岸も多い。
また、枕状溶岩に含まれる赤碧玉(インターピローチャートとも呼ばれる)がかつて採掘された石切り場が海岸近くにあったが、
そこの地質構造はブツ切り状態になっており他に比べてとても難しかった。
結局、石切り場の方はよくわからないまま終了となった。
夕食はネフィンのサンセットビーチで、フィッシュ・アンド・チップスのテイクアウトを
・8月4日
泣いても笑っても調査の最終日。前日によく分からなかった石切り場の少し北側を見てみることに。
デュープレックス構造のようにきれいな構造までは分からなかったものの、海洋プレート層序をとりあえず確認することができました。
あと、個人的には赤碧玉が大量に採れたので満足でしたw
この日、ウェールズのスリン半島を後にしてレスターへ移動。
・8月5日
レスター大学へサンプルを預ける。ここから日本へ船で発送していただく。
そして僕らはロンドンのヒースロー空港近くのホテルへ。
おつかれさまの一杯!!
・8月6日
あとは帰るだけ。朝からさっさと出て、10時半の飛行機で日本へ!!
しかしレンタカーの返却手続きで手間取って時間がかかり、搭乗がギリギリになり少しヒヤヒヤでしたw
・8月7日
ただいま日本!! 皆様、調査おつかれさまでした。