菱マンガン鉱の化学組成はと書き表され、化学的には炭酸マンガンと呼ばれる物質である。三方晶系で方解石と同じ結晶構造を持つ。方解石グループの鉱物である方解石や菱鉄鉱、菱苦土鉱などの鉱物と連続的に固溶体を形成し、マンガンがカルシウムや鉄に置き換わる。他の方解石グループの鉱物と同様に、希塩酸と反応して二酸化炭素の泡を出しながら溶解し、塩化マンガン水溶液となる。
菱マンガン鉱は方解石と同様にへき開完全だが、硬度3.5-4と方解石よりやや硬度は高く、比重は3.7もあり、方解石の比重2.7よりもはるかに高密度の鉱物であると言える。菱鉄鉱の比重は4.0であるため、マンガンの一部が鉄に置換されるとより比重が大きくなる。
典型的な菱マンガン鉱の色は鮮赤色~ピンク色であるが、上記の固溶体組成の変化によってピンク色に褐色や白色などが加わってような色になることがある。中間的な組成のものや細粒の結晶が集合したものの肉眼による区別は難しい。
菱マンガン鉱は主に変成岩や熱水変質の影響を受けた岩石の中に産出する。また、前期原生代に特徴的な堆積岩の中には多量に含まれ、"菱マンガン鉱岩"をなすことがある。 代表的な産状を列記すると、(1)原生代堆積岩、(2)変成マンガン鉱床、(3)熱水鉱床・スカルン鉱床、(4)カーボナタイトとなる。
菱マンガン鉱の球状集合の大型標本。画像幅約1.2m。青森県尾太鉱山。
上記の前期原生代堆積岩や変成マンガン鉱床において多量に産する菱マンガン鉱は、軟マンガン鉱などの他のマンガン鉱物とともにマンガン鉱石として採掘されている。
一方で、熱水鉱床の脈石として産する菱マンガン鉱は金属資源としての意義はほとんどないが、透明感を持った鮮赤色の大型結晶や放射状・層状などの模様をもった集合体など美しい見た目を持って産出するため、宝飾品用途に採掘される。ただし、菱マンガン鉱はアクセサリーとして用いるには硬度が低く、へき開によって割れやすい、空気中で徐々に退色してしまうなどの難点があるため、取り扱いには注意が必要である。
世界でもっとも美しい菱マンガン鉱の結晶を産するアメリカ コロラド州Sweet Home鉱山の標本と坑内露頭の剥ぎ取り標本(それぞれ画像幅約40cmおよび約60cm)。