石墨は純粋な炭素飲みからなる鉱物である。石墨の結晶のなかの微量成分の量は極めて少ない。
石墨の結晶構造は、炭素原子が蜂の巣状に六角形を平面的に連ねた形で共有結合した層と、その層が何枚もファンデルワールス結合で重なるという、2つの結合による。そのため、石墨はへき開完全で、層状に剥離しやすい。
近代化学の発達以前、石墨が炭素からなると知られていなかった時代には鉛を含むと思われており、ラテン語で鉛を意味するplumbumに由来するplumbagoと呼ばれていた。
そのため、英語でもblack lead、日本語もこれらを黒鉛と直訳した。
グラファイトgraphiteという名は、鉛をまったく含まないことが判明した後、plumbagoという名が不適切とされたことで提案されたものである。
現在の日本語においては、「石墨」は天然に産する鉱物の呼称する単語として、「黒鉛」は人工的な合成物や天然の石墨を精製して得られた純度の高い試薬となったものを呼称する単語として、それぞれ区別されている
一方、英語では天然の鉱物も人工物もすべてgraphite(グラファイト)という呼称に統一されている。
石墨の他に純粋な炭素からなる鉱物(多形、同質異像)として、ダイヤモンドが有名である。ダイヤモンドは高温高圧で形成され、全ての炭素原子が共有結合によってつながっており、3次元的な網目構造をしている。
ダイヤモンドのほかに、ロンズデーライト(Lonsdaleite、ロンズデール石、六方晶ダイヤモンド, Hexagonal diamond)という純粋な炭素からなる鉱物が多形として知られている。ロンズデーライトは隕石衝突による瞬間的な高圧によってダイヤモンドなどを伴ってごく微細なものが形成されるにすぎないが、世界各地の隕石クレーターからその存在が確認されている。
石墨の産出は、一般的には有機物を含む堆積岩の変成によるものである。具体的な岩石名としては、ホルンフェルス、結晶質石灰岩、スカルン、準片麻岩等が挙げられる。
なかでも片麻岩の中で石墨が濃集して鉱業的に重要な規模の鉱床となることがある。
泥質片岩(泥岩を源岩とする結晶片岩)の一部は含まれる鉱物による分類では石墨片岩と呼ばれることが多い、石墨が目立つためにこのような呼称になるが実際に含まれている石墨の量は石英などの造岩鉱物と比べると遥かに少ない。
泥岩のような有機物に富む堆積岩を溶かし込んだ花崗岩類(いわゆるSタイプ花崗岩)やそのペグマタイト化したものの中にも石墨が見られることがある。
石墨の特殊な産状として、キンバーライトやカーボナタイトが挙げられる。これらの岩石の中の石墨はダイヤモンドが不安定化して生じたものであると考えられる。
石墨の用途は鉛筆の芯等の筆記用具、耐火材料、潤滑剤、中性子減速材など様々であり、産業的に重要な資源である。
石墨の産業的利用は、鉛筆製造のために16世紀前半にイギリス湖水地方で採掘されたのが最初であるとされている。現在でもスリランカのサバラガムワ、マダガスカル、メキシコのソノラ、カナダオンタリオ州など世界各地で石墨の採掘が行われている。日本でもかつて富山県千野谷鉱山・高清水鉱山で採掘が行われていたが現在は閉山している。
20世紀に入って以降は黒鉛炉の中性子減速材としての利用が石墨の産業的利用の中でも注視されている。黒鉛炉は発電効率は軽水炉などに劣るが、効率的にプルトニウムを生産できることから、核武装につながりやすい設備であるためである。