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苦灰岩 dolostone

苦灰岩(くかいがん、dolostone、ドロストーン)は、ほとんど苦灰石(dolomite、ドロマイト)というカルシウムとマグネシウムの炭酸塩鉱物(CaMg(CO3)2)のみからなる堆積岩の一種。
苦灰岩 dolosotne (中国雲南省梅樹村 小歪頭山Mb)
苦灰岩(中国雲南省梅樹村 小歪頭山Mb)

苦灰岩の定義と概要

苦灰岩は苦灰石(ドロマイト)の他に少量の方解石(calcite, CaCO3)やアラレ石(aragonite, CaCO3)を伴うことが多い。 慣例的に"ドロマイト"という用語は鉱物にも岩石にも用いられることが多いが、正しくは鉱物をドロマイト、岩石をドロストーンと区別する。
先カンブリア時代のの苦灰岩は,石膏(gypsum, CaSO4・2H2O)や岩塩(halite, NaCl)などの蒸発鉱物を伴うことがある。 さらに副成分として、鉄の酸化物や粘土鉱物、さらに有機物を微量に含むことがある。
純粋な炭酸塩鉱物だけからなる苦灰岩は白色や灰白色をしているが、副成分鉱物の種類によって、褐色、薄赤色、薄黄色、黒色などの色を持つ苦灰岩も普通に存在する。 苦灰岩の粒子の大きさは続成作用の程度に様々である。
かつては和名に白雲岩(はくうんがん)が使われたこともあったが、現在では使われない。

苦灰岩の成因

ドロマイトの生成反応は,以下の2つのパターンが考えられる

(1) 水溶液(海水や熱水など)から直接ドロマイトが沈澱する反応
  Ca2++Mg2++2CO32- → CaMg(CO3)2

(2) 石灰岩などの炭酸カルシウムが交代反応でドロマイトになる反応(ドロマイト化作用)
  2CaCO3+Mg2+ → CaMg(CO3)2+Ca2+

しかし、いずれの反応も現在の地表環境で常温常圧下では起こらない。

先カンブリア時代のの苦灰岩は,蒸発鉱物を伴うことから海水から直接沈澱した蒸発岩の一種であるという考えがある。 大気の二酸化炭素の分圧が現在よりも遥かに高かったことから、(1)のドロマイト沈殿反応が起きたのかもしれない。

一方で、顕生代の苦灰岩の大部分は,サンゴ,石灰藻,二枚貝などの海に棲む生物の遺骸を含むため、 いったんは石灰質堆積物として堆積したものが地中に埋没し、続成過程の中で(2)のドロマイト化作用が起きたと推定される。
ドロマイト化作用で苦灰岩を形成するには、(i)ドロマイト化作用に適した溶液を生成する環境を維持する地質学的環境、と(ii) 石灰岩のCa2+を大量に交代しうる大量のMg2+の供給、の両方を満たす必要がある。 これらの条件を満たしてドロマイト化作用が起きる環境について、数多くのモデルが提唱されている。 それらのモデルは堆積直後から地下深部に埋没した後までのさまざまな続成段階を想定している。

ドロマイト化作用 苦灰岩の形成モデル
ドロマイト化作用による苦灰岩形成の様々なモデル (松田(2009)より。Tucker and Wright(1990) を一部改編)。

A 蒸発性ドロマイト化作用(サブカモデル)
サブカは,乾燥気候下に広がる,起伏に乏しくきわめて緩い傾斜を持つ海岸平野を指す。 サブカでは、季節風や暴風により海水がしばしば内陸に流入し、 激しい蒸発作用により,その塩分は平均海水の数倍から10倍に達し,アラレ石・含Mg方解石などの炭酸塩鉱物, 石コウ・硬石コウなどの硫酸塩鉱物,あるいは岩塩などが沈澱する。 これらの鉱物の沈澱により、残液ではMg/Ca比が高まり、地表面下2 ~3 m にドロマイト化を引き起こす流体が存在する。

B 蒸発性ドロマイト化作用(シーページ・リフラックスモデル)
海岸域で海から隔離された塩湖や礁湖において、蒸発作用が激しく起こると、 上記のサブカと同様に高いMg/Ca比の高塩分水が形成される。 この高塩分水の比重は下位の堆積物中の間隙水よりも大きいため,下方へと流出し,海へ還流する。 一方で、塩湖や礁湖には埋め合わせるようにして海水が流入する。 この高塩分水と海水の循環により,塩湖の表層堆積物下にある炭酸塩堆積物がドロマイト化する。

C, D: 混合水ドロマイト化作用
海水と淡水との混合水帯でドロマイト化作用が起こるとするモデル. 現在の海水は,方解石・ドロマイト両者に対し過飽和であり,ドロマイトの方が過飽和度は大きい。 一方で淡水では,ドロマイトは不飽和,方解石は一般には不飽和,炭酸塩岩地域では過飽和であることが多い。 海水と淡水が混合すると,ある混合率の範囲で方解石の飽和係数が海水や淡水よりも低下し、方解石がドロマイトに比べて相対的に溶けやすくなる。

E: 海水ドロマイト化作用
海洋では水深が深くなるにつれ,水温の低下と圧力の増加により炭酸塩鉱物は海水に溶解するようになる。 低緯度域の太平洋では,方解石は水深1,000 m 程度で溶解してしまうが,ドロマイトは,同一水深でも過飽和である。 そのため,海山・海台上に累重する炭酸塩堆積物中に,方解石に不飽和,ドロマイトに過飽和な低温の海水が流入すると,ドロマイト化されることになる。

F: 埋没ドロマイト化作用
続成過程後期の埋没に伴い,盆地成堆積物からMg2+に富む間隙水が供給されることで,隣接する炭酸塩堆積物がドロマイト化するモデル。 北米大陸北部に発達する古生代ドロマイト貯留岩などに適用されている

灰色の石灰岩が白色の苦灰岩に置換されていく境界部分(岐阜県赤坂)
灰色の石灰岩が白色の苦灰岩に置換されていく境界部分(岐阜県赤坂)

苦灰岩の風化と変成

苦灰岩が風化すると、その表面は象の表皮のような特徴的な凹凸模様ができる。このような構造を象皮状風化と呼ぶ。 長時間風雨にさらされていた苦灰岩の露頭の表面で象皮状風化がよく見られる。

象皮質構造を示す苦灰岩(ドロマイト、ドロストーン、炭酸塩岩の一種)
象皮状風化を示す苦灰岩(約6億年前、アメリカカリフォルニア州デュモン砂丘)

苦灰岩が熱変成すると、粒度が大きくなり大理石(結晶質石灰岩)のような見た目を呈するが、固有の岩石名はなく、苦灰岩と呼ばれる。 変成に伴って珪酸(シリカ)が苦灰岩に供給されると、ドロマイトスカルンを形成する。 ドロマイトスカルンでは、ドロマイトと珪酸が反応して苦土かんらん石やスピネル、ヒューム石などのマグネシウムに富む珪酸塩鉱物が生じる。

苦灰岩の産業利用

苦灰岩を構成するドロマイト(苦灰石)はセメント原料、ガラス原料、鉄鉱精製原料、排煙から硫酸を除去するための反応剤などに用いられる他、 マグネシウムの原料として土壌改良材、肥料、食品添加物(消毒用)などに用いられる。

関連項目

参考文献

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