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チャート chert

チャート(chert)は、ほとんど微細な石英(SiO2)のみからなる堆積岩。 チャートには生物起源のものと非生物起源のものの両方がある。 生物起源のチャートは、主に放散虫などのシリカの殻を持つ微生物の死骸が遠洋深海底で堆積したものである。 非生物起源のチャートは、水中での熱水活動に伴って放出されたシリカが積もったものである。 チャートには褐色、赤茶色、緑色、淡緑灰色、灰色、黒色など様々な色のものがある。 赤褐色や茶色のチャートは、微細な酸化鉄鉱物(赤鉄鉱hematiteなど)を含んでいる。 黒色や灰色のチャートは、硫化鉄(主に黄鉄鉱pyrite)や炭素化合物(石墨や不定形炭素、有機物など)を含む。 緑色のチャートは、二価の鉄を含む緑色の粘土鉱物を含む。 これらの違いは、チャートの堆積した環境(特に酸化還元状態)の違いや、堆積語の二次的な変質・変成作用によって構成鉱物によって変化する[1][2]。 チャートの割れ口は貝殻状になるものが多い。
赤色チャート 美濃帯 red chert Mino belt
赤色層状チャート(岐阜県犬山)

顕生代のチャート

顕生代のチャートは、放散虫などのシリカの殻を持つ微生物の死骸が遠洋深海底で堆積した生物起源ものが大半を占める。 遠洋深海底で堆積したチャートは、大陸から遠い海洋底で堆積するため陸源性の砕屑粒子(砂や泥、火山灰)をほとんど含まず、また深海であるために炭酸塩鉱物を含まない(炭酸塩は深海底では水溶する)[3]
陸上で観察される遠洋深海底で堆積したチャートは、主に付加体である。付加体では レイヤーパラレルスラストによって区切られることによって、同じ層準が何度もくりかえし積み重なったデュープレックス構造を示すことが普通である。[4][5]
顕生代のチャートは多くの場合、赤茶色や褐色をしている。 これは、大気・海洋ともに酸素が豊富な酸化的な環境でることから、海洋に存在する鉄は3価の酸化的な状態にあり、それを含む鉱物(赤鉄鉱hematiteなど)が赤茶色や褐色を呈するためである。 一方、変質によって緑色のチャートにになる[1][2]。 また、顕生代のなかでも生物の大量絶滅が起きた時代では、表層環境の大きな変動により深海底が還元状態になることがしばしばある。 このような場合、鉄が酸化されずに2価の状態の黄鉄鉱などの鉱物で沈殿し 生物生産が低下することでチャートではなく黒色頁岩が堆積する。 [6]

チャートは遠洋深海底でゆっくりと堆積するため、堆積速度が極めて遅い。数cmが堆積するのに約2万年かかる。
顕生代のチャートは、数センチメートル幅の顕著な層状構造を示す。数センチメートルの均質なチャート部分と、その間に挟まれた薄い泥質(頁岩質)の部分に分かれている。 このような層状のくりかえし構造は、周期解析の結果、ミランコビッチ・サイクルによって形成されたと考えられている[7]。 生物生産の活発な温暖期は均質なチャートが堆積する。一方で、周期的に起こる寒冷期には、生物生産が低下し、チャートの元になる珪質の生物の殻の供給が大きく減少し陸からごく僅かに流れ込む泥質の砕屑物が薄く堆積するのみとなる。

先カンブリア時代のチャート

放散虫のような珪酸塩鉱物の殻をもつ生物が登場していない先カンブリア時代のチャートは、 主に海底火山の熱水噴出孔の作用によって形成された。 特に太古代から原生代前期では海底火山の熱水噴出活動に伴って形成されたチャートが広く見られ、縞状鉄鉱層(BIF, Banded Iron Formation)の産出と密接な関わりがある場合が多い。 先カンブリア時代のチャートは必ずしも深海で形成したものはなく、浅海で形成したと考えられるものも広く存在する。

太古代(先カンブリア時代)34億年前のチャート(西オーストラリア ピルバラ地塊 ノースポール)
34億年前太古代のチャート(西オーストラリア・ピルバラ地塊・ノースポール)

産業利用

チャートの石材利用は一般的とはいえない。硬く加工しづらいことや、付加体に分布することから連続的に均質な石材を得られにくいためである。 しかし一方で、その硬く堅牢である性質を利用して石材となることがある。高知城の石垣は秩父帯の付加体中から得られたチャートでできている。
再結晶が進んだチャートの割れ口は鋭い貝殻状になることが多く鋭い刃先を得られることから、打製石器に利用されていた例も数多く知られている。
チャートそのものの利用ではないが、チャートの中にはマンガン鉱床を胚胎することが多い。 

関連項目

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参考文献

[1] 中尾京子, 磯崎行雄. (1994). 美濃帯犬山地域の遠洋性チャート中に記録された P/T 境界深海 anoxia からの回復過程. 地質學雜誌, 100(7), 505-508.
[2] Sato, T., Isozaki, Y., Shozugawa, K., and Matsuo, M. (2011). 57 Fe Mossbauer spectroscopic analysis of deep-sea pelagic chert: effect of secondary alteration with respect to paleo-redox evaluation. Journal of Asian Earth Sciences, 42(6), 1403-1410.
[3] Hori, R. S., Cho, C. F., & Umeda, H. (1993). Origin of cyclicity in Triassic‐Jurassic radiolarian bedded cherts of the Mino accretionary complex from Japan. Island Arc, 2(3), 170-180.
[4] Matsuda, T., and Isozaki, Y. (1991). Well‐documented travel history of Mesozoic pelagic chert in Japan: from remote ocean to subduction zone. Tectonics, 10(2), 475-499.
[5] Fujisaki, W., Sawaki, Y., Yamamoto, S., Sato, T., Nishizawa, M., Windley, B. F., & Maruyama, S. (2016). Tracking the redox history and nitrogen cycle in the pelagic Panthalassic deep ocean in the Middle Triassic to Early Jurassic: Insights from redox-sensitive elements and nitrogen isotopes. Palaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoecology, 449, 397-420.
[6] Isozaki, Y. (1997). Permo-Triassic boundary superanoxia and stratified superocean: records from lost deep sea. Science, 276(5310), 235-238.
[7] Ikeda, M., Tada, R., & Sakuma, H. (2010). Astronomical cycle origin of bedded chert: a middle Triassic bedded chert sequence, Inuyama, Japan. Earth and Planetary Science Letters, 297(3), 369-378.

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