茨城県笠間市平町のランプロファイヤー

訪問日 2013/01/20

○概要

国立科学博物館叢書『鉱物観察ガイド』(松原聡,2008)のp.32~33に、関東では比較的有名な鉱物産地である「柊山のドロマイトスカルン」の紹介の「ついで」のような形で、 「平町の現地で観察できる岩石」という形で、ランプロファイヤーLamprophyreの1種のスペサルト岩Spessartiteが紹介されている。 ランプロファイヤーLamprophyreは和名では煌斑岩(こうはんがん)と呼ばれる火成岩である。 ランプロファイヤーというと、シリカに乏しくカリウムなどのアルカリに富む半深成岩的な特殊な火成岩(いわゆるアルカリ火成岩)で、 そういった岩石は大陸内部の火成活動によるものであって沈み込み帯の日本列島の領家帯花崗岩類には縁もゆかりもないものかと思っていただけに、少し意外であった。 今回、笠間市の柊山と加賀田鉱山へ鉱物採集しに行ったついでに現地の様子を見に行ってきたので、その様子をここで展示する。

○現地の様子


茨城笠間のランプロファイヤー煌斑岩Lamprophyre_スペサルト岩Spessartite 
↑左 産地の全貌 
  右  左の写真をとった場所から、反対側の橋を望む。

 
↑ 上の写真でわかるように、コンクリート護岸に覆われており、全然川に降りられるような雰囲気でもないし露頭も全然無いのですが、それでもなんとか狭い狭い河原に降りて小さな露頭を何箇所か見て回りました。


 
↑せっかく河原に降りてもランプロファイヤーのような岩石は見つからず、あるのはホルンフェルスばかりでした。
 左は露頭表面の様子。右はすこしはんまーで割って新鮮な部分を出した様子。この地域ではとても普通な、黒いホルンフェルスしかありません。  この他、転石では風化して茶色い鉄さびに染まったような花崗岩が見られました。

 
↑川から上がり、道をはさんで反対側にも小さな露頭があったので、地元民に少し奇妙な目で見られながらも(笑)眺めてみましたが、こちらも河原と同様のホルンフェルスでした。。 

○結局、茨城のランプロファイヤーとは何なのか -家で気がついた重大なミス-

結論から言うと現地でホルンフェルスと思っていた岩石こそが、「ランプロファイヤー」「スペサルト岩」であっただろう、ということである。 『鉱物観察ガイド』の記述にもあるように"ランプロファイヤ起源のホルンフェルスともいうべきもの"であったのだ。
今回の鉱物採集行は急遽連れて行ってもらえることになって付いていった感じだったので、資料をあまり読み込んでいなかった。 予習していれば現地でホルンフェルスと判断せずにちゃんと見ていたかもしれないが、これは残念、つまらないホルンフェルスと思ってサンプルを採集せずに帰ってきてしまった…
やっぱり巡検や採集前の予習は重要ですね、気をつけますw
ネットで検索した所、このサイトに、スペサルト岩のわかりやすい標本が載っている。 見た目はホルンフェルスやあるいは玄武岩などとは容易には区別できない。
「茨城のランプロファイヤー」ということではCiNiiなどで論文を検索したものの1件も見つからず、ネット検索で唯一見つけたのは、 こちらの岐阜大学教育学部の筑波山から採れた岩石標本だけでした。
あまり地球科学的な注目はされていないのでしょうかね…?

・そもそもランプロファイヤーとは
ランプロファイヤーLamprophyreは、組織や成分の似た岩石の総称として使われる語で、成因的な共通性は考慮されていないということに注意しなければならない。 大陸内部ではランプロファイヤーはアルカリ火成岩として成因的にも特異なものとして注目すべきものであるが、今回見た茨城県笠間市の「ランプロファイヤー」は おそらく花崗岩バソリスの冷却固結の過程で生じたクラックに岩脈として貫入したマフィックな「出がらし」の成分、 もしくは下部地殻のマフィックな部分を捕獲したもの、などと考えるのが良いだろう。
茨城の花崗岩の代表である稲田花崗岩におけるわかりやすい例を上げると、以下のようなものである。これは必ずしもランプロファイヤーではないが、産状としては同じような形で出るものではなかろうか。

つくば市にある地質標本館の入口の「門柱」であるが、稲田石の他にも花崗岩ではしばしばこういった角閃石や輝石に富むマフィックな貫入岩脈が見られる。
また、貫入岩脈ではなく、捕獲岩として産するものもある。 茨城県内で最も代表的な例は筑波山山頂付近で、斑糲岩Gabbro、コートランド岩(角閃石かんらん岩)Cortrandite、そしてスペサルト岩Spessartiteも見られる。
おそらく、肉眼的にホルンフェルスのようなもの、という形で片付けられている「黒っぽい岩石」の中にも、様々な起源を持った岩石があるのだろう。 「ランプロファイヤー」という岩石名や、「火成岩」「変成岩」という分類などにこだわることはあまり意味を見いだせるものではないが、 岩脈であればその起源はどのような花崗岩バソリスの貫入~冷却プロセスを反映したものなのか、もしくは捕獲岩であるならば下部地殻を知るための数少ない情報源となる可能性もある。
特に、花崗岩貫入からバソリスの形成に至るプロセスが下部~中部地殻でどのようにして起きているのかは未だ謎が多く、このような小さな不思議な岩体が特別な意義を持っているのかもしれない。

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