埼玉県寄居町西ノ入のヒスイ輝石と藍閃石

Jadeite and graucophane in Nishinoiri, Yorii City, Saitama Pref.

訪問日 2012.04.08.

概要

JR八高線折原駅から歩いて30分ところにある、寄居町西ノ入には稚童岩(Chigo-Iwa)と呼ばれるヒスイ輝石Jadeiteを含む岩石の露頭があります。 ここの岩石はヒスイ輝石(jadeite)を50%ほど含み、残りは大半が石英(quartz)、さらに脈状に藍閃石Gloucophaneが含まれています。
ヒスイ輝石も藍閃石もともに高圧変成を示す鉱物として有名です。糸魚川などの宝石になる「ひすい」はヒスイ輝石が90%を超える割合で含まれている"岩石"です。そのようなものは緻密な結晶から成る岩石のためハンマーで割るのは大変ですが、こちらの埼玉のヒスイは比較的容易に割れます。その分脆いし、見栄えもしないので宝石にはなりません。
この岩石に含まれるその他の副成分鉱物として、エジリン(錐輝石)緑閃石透輝石ジルコン褐簾石磁鉄鉱などが見られます。


産総研の20万分の1地質図(下図参照)を見ると西ノ入のあたりには三波川変成帯は露出していないことになっていますが、実際にはブロック状に低温高圧変成岩や結晶片岩、さらには蛇紋岩などが見られます。

↓西ノ入周辺の20万分の1地質図(産総研から)、黄緑色のところが三波川変成帯、紫色が蛇紋岩などの超塩基性岩、水色が閃緑岩など、緑色が弱変成を受けた玄武岩など(緑色岩)とされています。

埼玉県寄居町西ノ入で見られるヒスイ輝石や藍閃石を含む岩石

フィールドノート

今回歩いた場所の様子です。右上のオレンジのラインがJR八高線で、A~Cの地点は以下の解説に対応します。B地点の稚童岩には赤い矢印で示したように、点線の道に沿って歩いていきます。

埼玉県寄居町西ノ入で見られるヒスイ輝石や藍閃石を含む岩石。付近の地質図と今回の訪問地点

(1) A地点

泥質片岩かあるいは千枚岩と見られる層状の片理構造が発達した石墨を含む変成岩からなる露頭が見られた。
↓露頭の周辺とそれを構成する岩石の様子を以下に2枚。

埼玉県寄居町西ノ入で見られるヒスイ輝石や藍閃石を含む岩石

埼玉県寄居町西ノ入で見られるヒスイ輝石や藍閃石を含む岩石

埼玉県寄居町西ノ入_変成岩

(2) B地点

A地点から道なりに10分弱ほど進むと、途中で道がとても細くなる。そこで左折して今度は沢沿いに歩くと2分ほどで稚童岩と呼ばれるヒスイ輝石を含む岩石でできた露頭に至る。露頭は西向きの斜面にある。

↓A地点からB地点(稚童岩)に至る道(左)と、沢筋(右)の様子。

埼玉県寄居町西ノ入で見られるヒスイ輝石や藍閃石を含む岩石_稚童岩

埼玉県寄居町西ノ入で見られるヒスイ輝石や藍閃石を含む岩石_稚童岩

埼玉県寄居町西ノ入で見られるヒスイ輝石や藍閃石を含む岩石_稚童岩

↓稚童岩のヒスイ輝石を含む岩石の露頭の様子。

埼玉県寄居町西ノ入で見られるヒスイ輝石や藍閃石を含む岩石_稚童岩

↓新鮮な面を割り出した様子。薄い緑色をしている。ヒスイ輝石が半分、石英がもう半分という鉱物組み合わせからなる岩石。

埼玉県寄居町西ノ入で見られるヒスイ輝石や藍閃石を含む岩石_稚童岩

↓採集したヒスイ輝石-石英岩のサンプル。

埼玉県寄居町西ノ入で見られるヒスイ輝石や藍閃石を含む岩石_稚童岩

↓この岩石の中には石英脈が発達していて、1mm以下の細いものから数cmの太いものまで様々なサイズです。また、数mm程度の細かな黄鉄鉱や磁硫鉄鉱、さらにそれらが分解して二次的にできたと考えられる褐鉄鉱のような金属鉱物も見られました。

埼玉県寄居町西ノ入で見られるヒスイ輝石や藍閃石を含む岩石_稚童岩

埼玉県寄居町西ノ入で見られるヒスイ輝石や藍閃石を含む岩石_稚童岩

埼玉県寄居町西ノ入で見られるヒスイ輝石や藍閃石を含む変成岩_稚童岩

埼玉県寄居町西ノ入で見られるヒスイ輝石や藍閃石を含む変成岩_稚童岩

↓ヒスイ輝石をあまり含まず、クリーム色を呈する岩石も見られました。 ほとんどが石英からなる岩石のようで、青色の藍閃石が副成分として含まれているのが目立ちます。

埼玉県寄居町西ノ入で見られるヒスイ輝石や藍閃石を含む変成岩_稚童岩

埼玉県寄居町西ノ入で見られるヒスイ輝石や藍閃石を含む変成岩_稚童岩

↓ヒスイ輝石-石英岩の中の、藍閃石に富む部分。右の写真で画像幅約25cm。層状に藍閃石が入っていることが分かる。

埼玉県寄居町西ノ入で見られるヒスイ輝石や藍閃石を含む変成岩_稚童岩

埼玉県寄居町西ノ入で見られるヒスイ輝石や藍閃石を含む変成岩_稚童岩

↓上の写真と同じ標本の藍閃石部分のアップ。繊維状の結晶になっているのが見える。

埼玉県寄居町西ノ入で見られるヒスイ輝石や藍閃石を含む変成岩_稚童岩


持ち帰った岩石について、薄片を作成して偏光顕微鏡で観察してみました。

↓ヒスイ輝石-石英岩の薄片。直交ポーラーで観察。
ヒスイ輝石はNaとAlという軽い元素しか含まない輝石のため、輝石類の中でもっとも屈折率が低く、薄片観察の上では余り魅力的ではない鉱物である。石英との区別は干渉色では難しいが結晶の形によりすぐにわかる。
ときどき明るい干渉色の鉱物が入っているが、これはジルコンである。この産地では肉眼でも識別できるくらいの比較的大粒の1~1/10mmクラスのジルコンが多産する。

埼玉県のヒスイ輝石(岩石薄片観察変成岩のジルコン)

埼玉県のヒスイ輝石(岩石薄片観察変成岩のジルコン)

↓石英を主体とした岩石の薄片。直交ポーラーで観察。茶色いのは藍閃石のように見えた角閃石? 中央の鮮やかなピンク色の粒はジルコンで自形がよく両錐型がよく分かる。

埼玉県のヒスイ輝石(岩石薄片観察変成岩のジルコン)

(3)C地点 -おまけ

ついでなので、というか電車代をケチるため(笑)、東武竹沢駅まで歩いたところ、途中のC地点で風化した閃緑岩の露頭が見られました。金勝山と同じで跡倉ナップと呼ばれるクリッペ(根なし山)で、低角度の衝上断層(スラスト)により移動してきて三波川変成帯の上に乗っかった構造であると言われています。三波川変成帯の上昇などとはどのように関係しているかは、まだ議論が続いており、日本列島構造発達史を考える上で重要な存在です。

↓露頭の周辺の様子(上)と露頭で見られた風化して真砂のようになりつつある閃緑岩(下)。たしかに閃緑岩ですが、もうボロボロです・・・

埼玉県寄居町西ノ入で見られるヒスイ輝石や藍閃石を含む変成岩_稚童岩

埼玉県寄居町西ノ入で見られるヒスイ輝石や藍閃石を含む変成岩_稚童岩

↓石英脈のような部分も見られた。

埼玉県寄居町西ノ入で見られるヒスイ輝石や藍閃石を含む変成岩_稚童岩

埼玉県寄居町西ノ入で見られるヒスイ輝石や藍閃石を含む変成岩_稚童岩


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