planetscope_白馬八方温泉・八方尾根と蛇紋岩

長野県白馬村の蛇紋岩地域(八方尾根・白馬八方温泉)
訪問日 2012年9月

・概要
 長野県白馬村には、青海帯の蛇紋岩が露出しています。今回は大学のサークルの観光旅行で八方尾根のハイキングと白馬八方温泉の「おびなたの湯」に行きましたが、その際に観察できた蛇紋岩などに関連したものを紹介したいと思います。

・八方尾根
八方尾根とは、長野県北西部,飛?山脈後立山(うしろたてやま)連峰の唐松岳(2696m)から東方にのびる尾根のことです。ここはスキー場として開発され、長野オリンピックの舞台ともなりました。麓の北安曇郡白馬村八方(細野)から、ゴンドラで結ばれていて、スキーの他、夏場はハイキングや登山に用いられています。

麓の駐車場に車を停めて、ゴンドラに乗って上がっていく。
ゴンドラから振り返って、ゴンドラ駅を撮影。

↑高原の風が気持ち良い、開放的なゴンドラ!

ゴンドラを3回乗り継いで、底から先は登山道を歩きます。
岩場の道ではありますが、有名観光地というだけあって、小学生でも歩けるような整備の行き届いた道でした。

↑岩場の道。
落ちている転石はすべて蛇紋岩です。蛇紋岩は本来、緑色〜深緑色〜黒色を呈する岩石ですが、その表面は空気中や雨水中の二酸化炭素と反応することで、コーリンガ石Coolingiteかもしくはブラグナテリ石Brugnatelliteなどの炭酸塩鉱物が生じており、赤茶色になっているものが多数見られます。

↑高原の草地を歩いて行く道。
蛇紋岩のような超塩基性岩(超苦鉄質岩)の広がる地域では、地質に含まれているマグネシウムMgが土壌にも影響を及ぼし、Mgに富むどじょうがけいせいされます。そのような場所では高山植物が、通常よりも低めの標高で見られると言います。私は植物にはそこまで詳しくないので、どれがその影響なのかは今回はわかりませんでしたが…また、土壌の他にも風向きや地形などの影響もあるので、一概に蛇紋岩の影響で植生の変化がどうなるかということを語るのは難しそうです。

 登山道に広がる転石の蛇紋岩をいくつか撮影しました。

↑白馬八方尾根の付近で特徴的な、層状の構造を持つ蛇紋岩。
 
↑層状の構造を持たない蛇紋岩も数多くある。塊状、繊維状などさまざま。
また、蛇紋岩の構成する鉱物も、蛇紋石のみのノッペリしたものや、右上の写真のように輝石の斑晶が見られるものなど、さまざまである。

帰り道は雲が流れて、見晴らしがさらに良くなりました!
行きはやや雲がかかっていて遠くの景色が見えなかった分、感動も大きかった!


↑八方尾根から見下ろした糸魚川静岡構造線による盆地!明治時代に日本列島にやってきた地質学者ナウマンは、こういう光景を見て「フォッサマグナ」という概念を提唱したのでしょうか。素晴らしい眺めです!
 断層による盆地であるため、粘土が堆積することが多く水持ちの良い土地になるので、上から見てもわかるように水田に利用されているのがよくわかります。
 また、積雲がちょうど目の前に来るような高度で見ることができたので、雲底が平面になっているのが綺麗に観察できました。

↑糸魚川静岡構造線をさらに南側に望む。
このさらに先の南側に青木湖や木崎湖などの湖がある。

↑ゴンドラの乗り場の辺りまで帰って来た頃には、杓子岳などを望むことができた!
 大きくそびえ立ち、花崗岩が荒々しく削られて鋭く尖った山肌に圧倒される光景である。

望遠で撮影。雲が風邪で流れていく中から、その山肌が現れてくる様がほんとうに美しかった。

八方尾根での軽いハイキングの後、温泉へ向かうことにした。

・白馬八方温泉
 白馬八方温泉は日本で2番目に強いアルカリ性の温泉(pH11.2くらい)ということで有名です。さらに、蛇紋岩地帯に現役の火山活動による温泉熱水が流通しているということで、地質学、地球生命史などの地球惑星科学の観点から、極めて重要な場所である可能性があります。そういった科学的なお話は後述するとして、ひとまず温泉の様子を紹介しましょう。

 八方尾根へ向かうリフトチケットは白馬八方温泉の中の4つの温泉のうちどれか1つへの入浴が割引されます。今回はその中で「おびなたの湯」という温泉を選びました。源泉かけ流し、露天風呂のみのとても良い温泉です。
 
↑おびなたの湯の様子

 浴場内の様子を撮影するわけにも行かないので、こちらのサイトなどへのリンクを張っておきます。やや硫化水素泉のする温泉で、長く浸かっていると少し肌がヌルヌルとしてきます。浴場の岩組にも蛇紋岩が使われています。
 さらに、この温泉の洗い場にはシャワーがありますが、シャワーから出るお湯も温泉水を浸かっているので石鹸が泡立ちにくいようでしたw
 下に脱衣場にあった温泉分析書を示します。

 意外にもMgは検出されないようです。

 蛇紋岩やかんらん岩のようなFe2+を含む鉱物が沢山集合してできている超塩基性岩(超苦鉄質岩)が、熱水と反応することによって、水素が発生します。
Fe(U)|rock + H2O → Fe(V)|rock +H2
     カンラン石など       磁鉄鉱など

このようにして発生した水素を代謝のエネルギー源に用いている微生物は、地球の初期生命に近いとされていて、生命の起源Origin of Lifeの研究の観点から、超塩基性岩と熱水の反応が注目されています。詳しくはこちらのOrigin of Lifeに関するノートもごらんください。
通常、このような超塩基性岩と熱水が反応する場は海洋底の拡大場などであることがほとんどで、深海底の熱水噴出孔に限られています。しかし、この白馬八方温泉は世界でも類稀な、地上で超塩基性岩と熱水が反応している場であるのです。このような地質環境が生まれたのは、日本列島が複数のプレートの沈み込みにより複雑な構造の地質や地形となったことによる偶然とも言えるものでしょう。

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